(2010/09/24)
昭和3年に大阪で開業したレストラン「アラスカ」は、瞬く間に評判となり、朝日新聞社社主・村山長挙夫妻、小林一三(阪急東宝グループ創業者)氏、山本爲三郎(アサヒビール初代社長)氏といった財界の超大物から、谷崎潤一郎氏や菊地寛氏など、歴史に名を残す文人までをも魅了する超一流店となった。
そしてアラスカは、世代交代や経営危機を乗り越え、今日も変わらず営業を続けている。
82年もの間、名だたるエグゼクティブの支持を受け続けることができたその背景には、どのような「味」と「人」のマネジメント術が隠されているのだろうか。
それらを知ることは、飲食業界に限らず、我々に大きな示唆を与えてくれるに違いない。
マニュアルでできることは
「配合」にしか過ぎない
──レストランに限らず、82年もの長きにわたり存続している企業(法人化は1936年)というのは、本当に大変なことだと思います。それだけの期間、お客様の舌を満足させ続けるために、どのようなマネジメントをされているのでしょうか?
望月「味に関しては、常に変わり続ける必要があります。常連のお客様に『いつ来ても変わらないね』と言っていただくためには、ずっと同じことをしていてはいけません。もちろん、抜本的に変えるというわけではなく、逆に言えば、初代料理長の飯田進三郎の味は、決して変えてはならないアラスカの味の柱です。
ただ、その味を伝えるためには、同じことだけをやり続けていても駄目。アラスカのスタッフも変わり、お客様の味覚も変わり、生活形態も変わっていく中で、それに伴った変化をしていかなければ、老舗は『いつも同じだね』と言っていただけないと思います。変化をし続けて時代とマッチングできているからこそ、そう言っていただけるのではないでしょうか。アラスカには創業以来レシピがありませんが、仮に創業当時のレシピで、82年前の味をそのまま再現したところで、お客様には喜んでいただけないのではないかと思います」
――そうは言っても、やはりレシピがないと苦労する点も多いように思うのですが、マニュアル化したほうが、楽になるのでは? と考えたことはないのでしょうか。
望月「仰ることは分かります。ただ、マニュアルでできることは『配合』でしかありません。料理とは、もっと細かい次元の『匙加減』が大事なものであると私は思っています。レトルト食品を作るのであれば、それは配合で十分だと思います。しかしアラスカの料理は、人が作るものです。それは個々人の裁量による匙加減なくしては完成しないものです。先に申し上げた、時代とのマッチングも、匙加減によるものではないでしょうか。
お客様が今日は疲れておられる、といった状態でも、料理人の匙加減に任せているからこそ、それに合わせた料理をお出しすることができるのです。それこそ、マイナーチェンジが加わっても、それをレシピに書き残しておけば、アラスカの味を再現することは可能かもしれませんが、それだけではお客様に合わせることができません。アラスカの味をベースにした上で、さらに個々のお客様に合わせたベストのお料理をお出しするためには、やはりマニュアルがあってはいけないのではないかと思います」
──では、その場その場の匙加減はともかくとして、基本的な味つけを変える際などは、どなたがイニシアチブを握っておられるのでしょうか?
望月「それも完全に現場に任せています。関東と関西では、カレーひとつとっても関東のほうが辛かったりするなど、味つけも変わってきます。ゴルフ場の店舗にしても、地場に合った味付けが求められます。細かなモデルチェンジや、新しいメニューの開発などは、販売促進会議で決定後、現場の判断で行っています。もちろん各店舗で味が異なるといっても、ベースとなるアラスカの、飯田進三郎の味は変わりません。そこからアレンジを加える、といった感覚ですね」
そしてアラスカは、世代交代や経営危機を乗り越え、今日も変わらず営業を続けている。
82年もの間、名だたるエグゼクティブの支持を受け続けることができたその背景には、どのような「味」と「人」のマネジメント術が隠されているのだろうか。
それらを知ることは、飲食業界に限らず、我々に大きな示唆を与えてくれるに違いない。
マニュアルでできることは
「配合」にしか過ぎない
──レストランに限らず、82年もの長きにわたり存続している企業(法人化は1936年)というのは、本当に大変なことだと思います。それだけの期間、お客様の舌を満足させ続けるために、どのようなマネジメントをされているのでしょうか?
望月「味に関しては、常に変わり続ける必要があります。常連のお客様に『いつ来ても変わらないね』と言っていただくためには、ずっと同じことをしていてはいけません。もちろん、抜本的に変えるというわけではなく、逆に言えば、初代料理長の飯田進三郎の味は、決して変えてはならないアラスカの味の柱です。
ただ、その味を伝えるためには、同じことだけをやり続けていても駄目。アラスカのスタッフも変わり、お客様の味覚も変わり、生活形態も変わっていく中で、それに伴った変化をしていかなければ、老舗は『いつも同じだね』と言っていただけないと思います。変化をし続けて時代とマッチングできているからこそ、そう言っていただけるのではないでしょうか。アラスカには創業以来レシピがありませんが、仮に創業当時のレシピで、82年前の味をそのまま再現したところで、お客様には喜んでいただけないのではないかと思います」
――そうは言っても、やはりレシピがないと苦労する点も多いように思うのですが、マニュアル化したほうが、楽になるのでは? と考えたことはないのでしょうか。
望月「仰ることは分かります。ただ、マニュアルでできることは『配合』でしかありません。料理とは、もっと細かい次元の『匙加減』が大事なものであると私は思っています。レトルト食品を作るのであれば、それは配合で十分だと思います。しかしアラスカの料理は、人が作るものです。それは個々人の裁量による匙加減なくしては完成しないものです。先に申し上げた、時代とのマッチングも、匙加減によるものではないでしょうか。
お客様が今日は疲れておられる、といった状態でも、料理人の匙加減に任せているからこそ、それに合わせた料理をお出しすることができるのです。それこそ、マイナーチェンジが加わっても、それをレシピに書き残しておけば、アラスカの味を再現することは可能かもしれませんが、それだけではお客様に合わせることができません。アラスカの味をベースにした上で、さらに個々のお客様に合わせたベストのお料理をお出しするためには、やはりマニュアルがあってはいけないのではないかと思います」
──では、その場その場の匙加減はともかくとして、基本的な味つけを変える際などは、どなたがイニシアチブを握っておられるのでしょうか?
望月「それも完全に現場に任せています。関東と関西では、カレーひとつとっても関東のほうが辛かったりするなど、味つけも変わってきます。ゴルフ場の店舗にしても、地場に合った味付けが求められます。細かなモデルチェンジや、新しいメニューの開発などは、販売促進会議で決定後、現場の判断で行っています。もちろん各店舗で味が異なるといっても、ベースとなるアラスカの、飯田進三郎の味は変わりません。そこからアレンジを加える、といった感覚ですね」
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筆者紹介
望月 薫 Kaoru Mochizuki |
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