(2009/07/24)
「遺言書」の必要性
マイケル・ジャクソンの急逝で最近話題に上がっていることといえば、「遺言書の存在」ではないだろうか?
そこには遺産をすべて「マイケル・ジャクソン・ファミリー・トラスト」に与え、元妻であるデビー氏は「意図的に相続人から除外する」となっていた。財産の後見人には、子どもたちと自分の母親を指定していたのである。
もし、マイケル・ジャクソンが遺言書を作成していなければ……。
きっと、元妻デビー氏は子どもの後見人として名乗りをあげ、相続人として遺産相続について主張し、マイケルの親兄弟とメディアを巻き込んで裁判沙汰になっていたことだろう。そうなれば、残された子どもたちはどれほど傷つくことか……。
あなたが亡くなっても、あなたが大切に思ってきた人々は生き続ける。あなたが亡くなっただけでも悲しいことなのに、そこで醜い争いにでもなれば、さらに傷つくことになるのである。
そのうえ、もしあなたが会社を経営している立場であったら、マイケルのような急逝は、突如として全社員を路頭に迷わせることにもなりうるのだ。
だから遺言書は、 元気なうちに書き残す必要がある。 たとえ、あなたがマイケル・ジャクソンのように著名人ではなかったとしても、である。
遺言書を活用した「エステートプランニング」とは?
アメリカをはじめとする欧米諸国では、20代から株などへの投資を始め、資産を増やし、30・40代になるといかにその資産を運用するか、リスク管理に関して考え始める人が多い。
資産運用の方法の一つに、「エステートプランニング(遺産計画)」 がある。
誰だって、自分の財産を自分の思い通りに運用したいものである。「自分が死んだら、財産をどう活用したいのか」「生前に財産を自分で管理できなくなったら、誰に代理人を頼むのか」など、いつ不測の事態が起こっても問題ないように、若いうちから、エステートプランニングをするのだ。
また、エステートプランニングには、何らかの理由で医療行為に対する意思表示が出来なくなった場合(植物状態や脳死状態のときなど)に尊厳死を望むか、臓器提供をするかといった人生のエンディング対策も含まれている。
このように欧米諸国では、「自分らしく生きて死ぬ」ことをとても大切にしているのである。
遺言書はエステートプランニングのツールの一つである。自分が死ぬときに備えて早々にその作成をすることが、ごく一般的なビジネスパーソンにとって、当然のたしなみといえる。
ましてや、経営者やそれ同等の責務をこなす読者のみなさんなら、自分の死後、遺言書というツールを通じて、次世代を担う人々の混乱を避け、最善の道を提案することが最重要であると認識してもらいたい。
しかし、いまだ日本では「死」を考えることに対する“タブー意識”が強いため、積極的に遺言書を書く人は少ない。書くとしても、「死に際でよい」と考える人がまだまだ多いのが現状だ。
今日、日本でも離婚再婚をする男女が増えたうえ、事実婚など、家族の形が複雑、多種多様化している。そして、それだけ人間関係も複雑になっているということは、それぞれに応じた相続の形もまた同じように複雑、多種多様になっているはずである。
グローバルスタンダードが当たり前となっている現在、遺言書の必要性についても、世界の流れを意識してもらいたいものだ。
知って得する「トラスト」の効力
さて、先にも述べたが、最近では何かとテレビで「マイケル・ジャクソン・ファミリー・トラスト」という言葉を耳にした人も多いのではないか? 主に、「マイケル・ジャクソン家族基金」と訳されることが多いが、元来は、「マイケル・ジャクソン家族信託」 という意味を持つ。
「トラスト」という単語は、日本ではまだまだなじみの薄いものかもしれない。一方、アメリカでは、過去20‐30年の間で、「遺言書」より一歩進んだ「トラスト」が、エステートプランニングの主流になりつつある。
ここで「トラスト」の仕組みについて例を用いて考えるとしよう。
ある人が、自分の死後、全財産を息子に渡したいとする。そこで、まず、「●●トラスト」という架空の法人格(会社のようなもの)を作って、そこに自分の財産をすべて移す。そして、「自分が死んだら、息子に全財産を与える。ただし、20歳になったときに半分を、30歳になったときにもう半分を渡すこと」と指示しておく。
このようにしておくと、自分が死んだ後「●●トラスト」に入っている財産は自動的に凍結・保護され、息子がまだ20歳になっていなければ、その時が来るまで凍結状態が続くのだ。
そして、息子が無事に20歳になった時点で財産の半分が彼に移行することになるのである。
この時、亡くなった個人から子どもに財産が譲渡されるのではなく、「●●トラスト」から譲渡される点が、遺言書とトラストの大きな差なのである。
「相続」とは、財産などの権利や義務を「個人」から「個人」へ承継することをいう。いったん相続が発生すると、名義変更・相続税の申告といった、さまざまな手続きが必要となってくる。
遺言書によって個人から個人へ財産が譲渡されることは、この「相続」にあたるのである。
一方、「トラスト」は「法人」から「個人」への財産譲渡なので、「相続」にはあたらないのだ。
つまり、先ほどの息子は、あくまで「●●トラスト」という会社から自動的にお金を支払われただけとなる。自分が100%株主で社長なら、その会社のお金でゴルフに行っても、海外に行っても誰にも文句を言われる筋合いがないのと同じで、「●●トラスト」に預けてある資産の運用は、自分の思い通りにすることができるのだ。
さらに、「●●トラスト」は人間のように死んだりしない半永久的な存在なので、自分の死後、何十年という長期にわたって運用することも可能なのだ。
このように遺言書に従って財産を譲渡する際には、必ず相続が発生するのに対して、「トラスト」による財産の譲渡には、それが発生しないという違いがあるのだ。
しかも「トラスト」を使うと、人に知られず、相続税もかからずに自分の財産を特定の人に移すことができるのだ。
トラストに似た効果が得られる「遺言書」
ここまで読むと、「遺言書よりトラストのほうがいいじゃないか」と思う人が多いことだろう。
しかし、実は日本では「トラスト」にあたる「信託」の手続きが専門的で複雑なため、専門家に作成依頼しても最低数十万円の費用がかかるといった欠点もあるのだ。
「遺言書」ならほんの数枚の書類で済むが、「トラスト」は少なくとも何十枚という分厚い書類が必要で、素人が見よう見まねで作ろうというわけにはいかない。
さらに、信託銀行では「遺言信託」という業務を行っているものの、数千万円の財産を保持している資産家を主に相手にしているため、一般的なビジネスパーソンには敷居が高くなっている。
そして「遺言信託」では、遺言書の内容は、主に財産に関することに限定され、子どもの認知や相続人の廃除など身分に関すること、また、家族以外の第三者(愛人など)に全財産を譲るというような、将来トラブルが発生しそうな内容については原則引き受けてもらえないということもある。
アメリカには、約60種類以上のトラストが存在するが、日本にはまだまだ限られたものしかない。
いまだ、「死」に対してネガティブなイメージしかない日本人が、一足飛びに「トラスト」に手を出すのは、かえってリスクが大きいといわざるを得ない。
そこで、まず手始めに費用が安く、手続きも簡単な「遺言書」を使ってエステートプランニングを始めるのが利口な選択だといえるだろう。
実は「遺言書」では「負担付遺贈」 をすることが可能である。
これは、「自分の死後、病気の妻の介護をしてくれるなら、A氏に全財産を譲る」など、相手に何らかの条件を課し、それを叶えてくれたら遺産を渡すという内容である。
負担付遺贈を使えば、トラストと同じレベルまで届かなくても、遺言書に、ある程度の汎用性を持たせることができるのである。
いかがだっただろう? 「遺言書」の知識を身に付け、上手に利用することで、あなたの人生の遺産計画を思い通りにすることができるのである。デキるビジネスパーソンであれば、ぜひ健康なうちに「遺言書」を作成し、自分と大切に思う人が「よりよく生きて死ぬ」計画を立ててもらいたいものだ。
●次回は、読者のみなさんが「やっぱり若いうちから遺言書を作っておいたほうがよいな」と思わず考える、その具体的事例と解決法をご紹介しよう。



