
(2009/08/24)
最悪な事態を迎える前に
前回の内容から、遺言書は“エステートプランニングのツールの一つ”として活用できるうえ、「自分らしく生きて死ぬ」ためには遺言書が欠かせないということをおわかりいただけたのではないだろうか。
そこで、遺言書を作成しておかないと起こりうるトラブル事例をもとに、2号連続で、その「解決策」を指南する。
CASE:1 「遺言書が必要なのは、こんな人!」
路頭に迷う妻
― 子どものいない夫婦編―
Aさんは結婚してまだ2年。夫の両親は田舎に住んでいる。ところが、結婚前から彼らとの折り合いは悪く、入籍以来、お互いが顔を合わすことはほぼなかった。
しかし、舅・姑とは仲が悪くても夫婦仲はよく、Aさんは幸せな毎日を過ごしていた。そんな平穏な日々の中、なんと愛する夫が不慮の事故で亡くなってしまったのである。
子どももおらず、最愛の伴侶を失い、ショックで悲しみのどん底にいたAさん。それでも彼女は明るく気丈に振舞おうとしていた。
お葬式の手配をするため、いつも使っていた銀行に預金をおろしに行ったときに、問題は起こったのである。
銀行の窓口で 「相続人全員の実印がなければおろせません」 と言われてしまったのだ。
結局その日Aさんはその口座から預金を引き出すことができず、実家にしばらくお金を借りることとなったのである。
彼女にはさらなるトラブルが待っていた。
折から仲が悪かった舅・姑から、なんと相続分を請求されたのである。
配偶者の自分がすべて相続するのではないのか。仲が悪く、この2年会ってもいなかった舅・姑に、なぜ愛する夫の遺産を渡さなくてならないのか?
生前、夫も「俺が亡くなったら、お前に財産を全部譲るよ」と言ってくれていたのに。
さて、Aさんはどうなるのだろうか……?
解決編
なぜ夫婦に子どもがいないと相続で困ったことになるのか?
普通、配偶者が亡くなった際でも、結婚さえしていれば自分が遺産を全額相続できると考えている人も多いのではないだろうか?
もちろん配偶者は財産を相続できる。しかし、二人の間に子どもがいない場合、亡くなった配偶者の親が生きていれば親にも、親がすでに他界していても亡くなった配偶者に兄弟姉妹がいれば、彼らにも財産を相続する権利がある。
この場合の相続分は法律で以下のように決められている。
・亡くなった配偶者の親が存命の場合:配偶者が2/3、親が1/3
・亡くなった配偶者の両親は他界し、兄弟姉妹がいる場合:配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4
また、亡くなった配偶者に兄弟姉妹がいたが、彼らも亡くなっていて、そこに兄弟姉妹の子どもがいた場合(あなたから見て義理の甥・姪)、その子どもも相続人となる。
なぜなら、法定相続分は以上のように決まってしまっているのだ。
遺言書を書いていない場合、配偶者は全額を相続することができないのである。
先ほどのAさんの場合、夫婦で夫名義の自宅マンションに住んでいた。もし預金がなければ、マンションを売ってAさんと舅・姑で分配するか、法定相続分に相当する額を舅・姑に渡さなければならない。
そうなれば、Aさんは住むところがなくなってしまう可能性もあるのである。
また、亡くなった配偶者の預金を銀行から引き出す、マンションの名義を変更するといった手続きにも、 相続人全員の実印が必要になってくる。
Aさんは専業主婦で、生活費を夫の口座から引き出していたため夫が亡くなった後、預金を引き落とそうにも元来仲の悪かった舅・姑から実印を貰うことができず、引き落とすことができなくなってしまった。
さらに、マンションの名義変更の際も同様に実印をもらえず、結局Aさんは泣く泣く追い出される形で実家に帰ることとなったのである。
亡くなったAさんの夫は、Aさんがこうなってしまったことをきっと天国で悲しんでいるに違いない。Aさん自身も、夫が亡くなった後も夫との幸せだった日々を思い出すことができたであろうに、こんなことになってしまっては、二人の思い出にも影を落としているのではないだろうか?
生前、遺言書をしっかりと作成し「妻に○○銀行の預金とマンションを相続させる」と書いておけば、妻はその遺言書を持って銀行に行き、スムーズに預貯金を解約できる。そのうえ、同じく遺言書と不動産の権利証を登記所(法務局)に持ち込めば、不動産の名義も同様に変更できるのである。
そうすれば、あなた自身が亡くなってしまっても、あなたが大切に思ってきた人の生活を保証し、守ることができるのである。
ただし、ここで注意してもらいたいことは、自筆で法律の形式に則らずに書かれたような遺言書では法的に認められないため、公証人に作ってもらい公正証書にする遺言書(公正証書遺言書)を書き残すことで、スムーズに手続きを進めることができる。

☆ここがポイント
「全財産を配偶者に相続させる」と遺言書に記しておくことで、スムーズに遺産相続ができる。
●次回は『遺言書で回避 ―家族の相続問題―』の第2のストーリーとして、「CASE:2 家業が継げない!? ―複数の子どもがいる夫婦編―」をお送りします。
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筆者紹介
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