(2009/12/24)
ないがしろにされがちな「聞く力」
人には「聞く」「見る」「話す」という能力があります。その中で、「見る」や「話す」ことは、自分の意思が必要なため、その能力の使い方を指南する授業や本といったものは数多く存在します。
自分の気持ちや意見を「話す」ことは、コミュニケーションを取るうえで非常に重要な要素です。そして、その気持ちや意見は、自然に相手に伝わるわけではなく、伝え方次第では意図したことが相手に上手く伝わらないことがあります。それゆえ、「話す」ことはずいぶん前から教育現場でも重要視され、ディスカッションや話し方の授業を取り入れるところも少なくありません。
また、「見る」ことに関しても、自分で意識しないとただ「見えている」だけで、対象物を正確に捉えることが出来ません。前回も取りあげましたが、「観察力」という「見る力」についても、「話す力」同様、図形問題や写生をさせることで幼少期から鍛えるための取り組みなどがされています。
しかし、「聞く力」についてはどうでしょう?
「聞く」ことは、意識せずともできます。逆に「耳をふさぐ」という行為をしない限り、自然に物音は耳に入ってきます。そのため、「聞く力」についてはあまり語られることがなかったように思います。しかし、「聞く」ことも、意識をして聞かない限り、ただ「聞こえている」だけで、本当に聞きたいことを「理解する」ことはできません。流し聞くことはできても、相手が本当に意図していること、核心を瞬時にキャッチし、理解することは、「聞く力」を身につけない限り、なかなかできないものです。
部下を持ち、企業のトップに立っても、今の時代、独善的なカリスマ性のある上司ではなく、部下の話をよく聞き、まとめるリーダーが必要です。
「聞く力」のある上司になれば、仕事の話以外の何気ない会話からも部下が何を考えているか、何に不満を感じているかを敏感に察知することができるため、事前に問題を解決できたり、部下の中の不満を爆発させることなく消化させることができるでしょう。また、部下の才能や、得手・不得手がわかるようになり、適材適所の人事配置をし、業績を伸ばすこともできるはずです。
コミュニケーション能力が叫ばれるなかで、「聞く」ことに重きを置いた教育が今こそ必要でしょう。
「聞き上手」は「コミュニケーション上手」
「聞き上手」の人は「話し上手」であり、「質問上手」だと言われています。一見、逆説的にも聞こえることですが、これはなぜでしょうか。
一つは、「聞き上手」の人は、まず相手の話を聞くことを重視します。人は、「聞く」ことより「話す」欲求が強いものです。自分の話を聞いてほしい、まずはその思いが強いのです。ですから、自分の話をじっくり聞いてくれる人に対して、好意的な感情を抱きます。
たとえば、あなたが二人から注意されたとします。一人はいつも自分の話ばかりをしていて、あなたの話をあまり聞いてくれない人。もう一人は、いつもあなたの話を聞いてくれる人です。さて、あなたはどちらの方の注意を真摯に受け止めますか。
おそらく、多くの人が後者の「いつもあなたの話しを聞いてくれる人」の注意を受け止めると思います。つまり、「聞き上手」になれば、逆に肝心な話を相手に「聞いて」もらいやすくなるのです。 ですから、「聞き上手」の人は「話し上手」となるのです。
「聞き上手」になれば、相手に「話させる」ことが上手になるため、「質問上手」になります。たとえば、「昨晩ニュースを観ましたか?」という質問と、「昨晩何の番組を観ましたか?」では、その後の会話の発展度が違ってきます。
前者では、「はい」や「いいえ」で会話が終わってしまいますが、後者であれば具体的な番組名が出てきて、それに対してさらに会話を進めることができます。
このように、相手に話させることが多くなる質問の仕方(「オープンクエスチョン」と言われています)を、「聞き上手」な人は会話の中で上手に使うため、そこから情報をたくさん得ることができ、相手とのコミュニケーションをスムーズに行うことができるのです。
では、相手に気持ちよく話させるためには、どうしたらいいか。
まずは、「体全体を使って聞く」習慣を身につけるようにしてください。相手が話している時に、体を相手の方向に向け、目を見て、表情を柔らかくします。そうすることで、相手はあなたに「受け入れてもらえている」という安心感を持ち、気持ちよく話をすることができるはずです。
さらに、相手が話している最中は、タイミングよく相槌を打つようにしてください。
「はいはい」や「ふーん」といった気の抜けた感じではなく、「うんうん」、「なるほど」、「それで」といったような、「ちゃんとあなたの話に興味を持っています」という態度を見せるようにしましょう。そうすることで、相手はあなたに対して信頼感を持つようになります。
「聞く」ことは無意識でできることなので、相手の話の最中にどうしても次に自分が言いたいことを考えたり、別のことを思ったりすることもあるでしょうが、そういう場合も、一旦メモをとるなどして、相手の話に集中し、「しっかり聞く」ことを意識してください。そうすれば、有意義な情報を得ることができるうえに、相手からも信頼されて友好的な関係を築くことができるはずです。
家庭で「聞く力」を身につけるためには
それでは、ご家庭でお子さんの「聞く力」を育むためにはどうしたらいいか。
お子さんが話し始める前なら、ご両親が積極的に目を見て話しかけることが大切です。そして、ご両親同士も話をする際に、お互いが目を見て話をするように心がけようにしてください。その際、どちらか一方が話をしているときは、もう一方はさえぎることなく、ちゃんと最後まで聞くようにし、その姿をお子さんに見せるようにしてください。これは、お子さんが大きくなってからも続けてください。
お父さんやお母さんが、会話の途中で話をさえぎる姿を見れば、お子さんは「会話の最中で自分の話をしていいんだ」と思い、相手の話しに集中することなく、自分の意見ばかりを考えてしまう「ながら聞き」の習慣が身についてしまいます。そうならないためにも、ご家庭では必ず「相手の方に体をむけ、目を見て、最後まで話を聞く」という習慣をつけてください。
お子さんがたどたどしくでも話し始めれば、その時も最後までちゃんと話を聞いてあげてください。途中で先回りして、「●●ということだよね?」と言ってしまうのは、ご両親の自己満足にしかなりません。一生懸命伝えようとするお子さんの話を、もどかしく感じるときがあるかもしれませんが、最後まで聞いてあげることで、お子さんは話すことが楽しくなると同時に、最後まで話を「聞く」というコミュニケーション方法を学んでいくのです。
お子さんが大きくなれば、聞こえてくる物音を紙に書かせるなどするのも良いでしょう。「1分間で聞こえてくる物音を全て書き出してごらん」と言うと、お子さんは意識して「聞く」ことを覚え、「こんなに周りで音がしていたんだ」とビックリすることもあるはずです。そして、これを何度か繰り返していくと、最初にやったときより、たくさんの音を聞き取る力がついてきます。
ご両親が本を読み聞かせて、それについて内容を話させることもおすすめです。最初は短い内容で、ゆっくりと、慣れてきたら少しずつ長いもので、スピードも速めていきます。こうすることで、お子さんは集中して「聞く」ことを覚え、そしてその中から「要点」を見つけることができるようになっていきます。
ちなみに、私が経営しているプレスクールでは、帰宅後、今度はお子さんが先生となって、その日に習った内容を生徒役のご両親の前で披露するように習慣づけをしています。授業をしっかり聞き、理解していないと相手に伝えることができないため、お子さんは集中して授業に臨み、先生の話を聞くようになり、「聞く力」を身につけることができます。また、ご両親には、たとえ知っている内容でも、お子さんが話しているときには、「ふんふん、そうなんだね」と知らないふりをして聞いてもらうようにしていただくことで、お子さんは話すことが楽しくなり、プレゼンテーション力もぐんぐんついていきます。
「話す」ことを重視しがちな昨今ですが、ぜひ、「聞く力」を身につけることで、本当のコミュニケーション能力を身につけていただきたいと思います。
●6回に渡ってお話しをさせていただきました「帝王学」、いかがだったでしょうか?
「帝王学」と名を打ってはいますが、社会で活躍するビジネスパーソンとして必要な基礎能力を伸ばすことをお話ししてきたつもりです。
いろいろとお話ししてきましたが、これから必要となるのは「人間力」につきると思います。よい学校に「合格」することを目的として勉強することが主流でしたが、全入時代になり、「合格後」、蓄えた知識をどう使うかという「知恵」を備えることが、これからは必要です。そのためにも、五感を鍛え、国語力を磨き、健全な精神を持った「人間力」が大切になります。
このコラムがその「人間力」を鍛えるための一助となれたなら幸いです。
|
筆者紹介
|
back number
|

安田 龍男 Tatsuo Yasuda


