bookコンシェルジュ

(2009/10/10)
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働いているすべての人へ、秋を彩る珠玉の2作


地方への出張が続いている。書店への販促のお願いだったり、作家をお連れして書店員さんと直接交流してもらったり、あるいはその地域で会合があったり……という具合だ。

出張先ではついバタバタして時間のめどが立たず、アポをとらずに書店に行くことも多い。突然の訪問でも歓迎されることもあれば、驚かれたり、冗談交じりに「営業に来るより、『◎△×△』(幻冬舎の売れてる商品)寄こしてよ」なんて言われることもある。書店員さんと出版社の営業担当者はもちろん取引先という関係なのだが、同じ商品を一緒に売る「チーム」という関係にも近い。一緒にフェアやPOPを考えたり、相談の上、多くの冊数を仕入れて店頭で展開してもらったりと、二人三脚で働いている。むろんうまくいくこともあるが、失敗することも多い。

なかなか表面には出ないが、書店員さんの仕事は多岐に渡る。店によっては分単位で店員のスケジュールがマニュアル化されていることもあるくらいだ。まだ開店前の早朝から、山と詰まれたダンボールを開封し商品をきれいに陳列する。閉店後にはバスや電車の最終の時間を気にしながら売り上げデータの確認や発注作業などに追われている。昨今の経費削減で空調は営業時間内だけということもあるから、真夏や真冬はハードな仕事だ。

たまにお叱りをいただいたり、時には感謝されたりするが、みんな商品を売ろうと努力している人がほとんどだ。そんな書店員さんの手を経ずして1冊も本は売れていかない。山あいの寂しい道をレンタカーで通って、あるいは海沿いを鈍行に揺られてとある地方の町にたどり着く。1年に1度しか行けないような店に突然「ご無沙汰してすいません、幻冬舎です」と言って入っていったとき、そこで自社の商品に丁寧なPOPが書かれていたりするのを見つけると、たまらなくうれしい気持ちになる。その感覚を味わいたくて僕はこの仕事をしているのかもしれない。

今月は、働いているすべての人に勧める2冊。

“なまけもの”に教えてもらい
“不器用な男たち”に励まされる


その1冊目が、『なまけもののあなたがうまくいく57の法則』(本田直之)

この著者の名を知らなくても、「レバレッジ・シンキング」レバレッジ・時間術」などの「レバレッジシリーズ」の著者と聞けば分かるだろう。著者は自らを「典型的ななまけもの」という。「意志は弱いし、コツコツ努力を重ねていくなんて、絶対にできません。しかし幸いなことに、わたしには前に進みたいという欲求がありました。なまけものでありながら前に進むための方法を、徹底的に考え抜きました」とあるから、多くのなまけもの読者は励まされることだろう。とにかく、すぐに役に立つのが本書の最大の特徴だ。

まずは自分をなまけものだと認めること。なまけものだから限られた時間のなかで成果を出すために「工夫」を考えるのだ。つまり賢く怠ける方法をさぐるのだ。57のノウハウがそれぞれ簡潔にまとめられているので、たとえば電車に一駅乗っている間に読むだけでもすぐに頭に入ってくる。

「あえて他人に流される」は他人の力を利用して、新しい自分に作り変えるという考え方。たとえば今までやったことのないマラソンに挑戦しようと誘われたら、あえてその誘いに乗ってみる。なまけものは自発的に何か新しいことをはじめるのは苦手だから、他人の力を借りなさいというわけだ。

また、仕事でいえば、よく言われるのが優先順位を作ってそのとおりに仕事をすることだが、なまけものにとってはそんな段取りよりも大切なのは「仕事をためないこと」。有能ななまけものなら優先順位で仕事をするのではなく、無意識化して順番もなにも考えずに思いついた順に仕事をすすめることが大切。

ほかにも、まずはすべての土台になる身体が不健康だったら何もならないので「自分の身体に投資する」や、締め切り時間のない夜にだらだら仕事をしないように「メールは夜にチェックしない」、「挨拶でスイッチを切り替える」などだ。

57項目のひとつひとつは本当にシンプルだ。すぐに実行できる。なまけたいのは誰しも同じ。ただ進化型のなまけものになるための秘策がここにある。中途半端な根性論や努力至上主義のような本を100冊読むのなら、まずはこの本を開いて、どの章でもいいので読んでみてほしい。必ず自身の役にたつはずだ。

2冊目が、『後悔と真実の色』(貫井徳郎)

こちらはミステリー小説。今、いちばん乗っている作家の最新作だ。

都内で若い女性の惨殺事件が発生した。悲鳴を聞いたと言う通報で現場に駆けつけた交番勤務の巡査が死体を発見。死体はなぜか人差し指を切り取られていた。通り魔による犯行とみえて捜査はなかなか進捗しない。そんな折、第2の事件が発生。やはり人差し指が切り取られていたのだ。やがて犯人は「指収集家」を名乗り、ネットでの殺人予告、次の殺害の実況中継などを行い、警察を翻弄する。本当に通り魔的な犯行なのか? 被害者たちに共通点はないのか?

主人公は警視庁捜査一課の西條。エースと目されているが、この西條が闇雲に活躍して事件を解決するわけではない。そこがほかの警察小説とは一線を画しているところだ。ネタバレになるので多くは書かないが、正義感にあふれて刑事になった男たちも心の中では誰よりも出世をしたいと思うし、同僚の活躍を嫉妬する普通の人間だ。

ヒーローではない普通の人間の生態が細かく描かれ、登場する刑事たち一人一人の、たとえば体臭すら伝わってくるほど描きこまれている。捜査が行き詰ったなかでの捜査会議の空気、署に泊まりこみが続き蓄積する疲労と向き合うそんな刑事たちの日々。著者はおそらく地味な取材を続けてそれらを小説のなかに再現してく。みんなごく普通の弱い人間で、傷つきながら生きている。不器用な男たちの姿になんだか励まされる読者もいるだろう。

もっともそんな刑事たちや捜査の実態もさることながら、小説の太い幹となる連続殺人の犯人探しも、あっというどんでん返しが二重三重にあってページを捲る手が止まらない。そしてこの結末があまりにも心に残る。組織の中でしか生きられない人間がいる。組織に向かない人間もいる。捜査一課のエース、西條はどうだったのだろうか。

久しぶりに訪ねた書店でひとしきり情報交換を終えるともう夕暮れになっていた。甘えてゆっくりしすぎてしまったようだ。あわてて店を出ると、もう秋の風が吹いていた。
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