「冷静沈着タイプ」が陥りがちな
“カンチガイ”リーダーシップとは?
厳格な父に育てられ、子どものときから優等生だったB氏。国立大学を卒業し、絵に描いたようなエリート街道を走り続けてきた彼が、“感情”に振り回されて行動することはない。デキるリーダーは冷静沈着で、常に合理的な判断をすることが重要と考えているのだ。日ごろから、マクロ経済動向や業界動向などの情報収集は欠かさない。
しかし、人間は完璧ではない。
あるプロジェクトを担当中に、ついにB氏は決断を誤ってしまった。結果、その案件は失敗に終わり、B氏の部下たちはその後始末に追われた。しかし、B氏は、そこでも冷静に失敗を分析し、原因は、ある部署からの情報共有が遅れたことであると突き止めた。B氏は、部下たちを集め、案件の総括会議を開き、分析結果を説明した。これで一件落着のはずだった。
ところが……
B氏の部下たちは納得しなかった。刺々しい視線でB氏を見つめながら、「Bさんに謝ってほしい」と迫った。
唖然としたB氏。思わず、彼らに反論した。
「謝って済む問題ではないだろう。それに、誰かの責任追及をするより、失敗の原因をきちんと判明し、再発防止策を立てるほうが建設的ではないか」
部下たちは黙った。しかし、彼らの刺々しい視線は変わっていなかった。
後日、殺伐とした雰囲気を醸し出すB氏の部署の有り様を見かねた人事担当者が、B氏の部下たちをヒアリング調査した。彼らはB氏について、こう語った。
「いくら有能であっても、人間として信用できない」
部下の心を惹きつける
「ストーリーテリング」を身につけよう
効果的な「決断」をするためには、情報を収集し、論理的に考えを組み立て、冷静に判断することが必要だ。リーダーとして、そんなトレーニングを受けている人も少なくないだろう。しかし、「決断」だけでは、組織を率いるリーダーの資質としては片手落ちだ。人間はさほど合理的ではない。メンバーの心をつかみ、意欲を引き出し、ベクトルを一方向へあわせるために、深い観察力や洞察力、そして感受性が求められるのだ。
B氏の部下たちでさえも、「人間は誰でも失敗する」「謝ったところでどうにもならない」と理解している。しかし、感情の波が彼らの理性を覆いかぶさり、B氏に「謝ってほしい」と言わずにはいられなかった。
事実、多くの経営者は、自社の戦略策定が明確に行われたにも関わらず、結果が出ないことに悩む。なぜなら、社員をアライメント(※その戦略遂行に向けて社員とベクトルを合わせること)をしなくてはならないという大きな壁があるからだ。どんなに正しく、綿密に策定した戦略であっても、必ずしも、社員を納得し共感させることはできない。社員に、戦略の資料を一斉メールで配信するのは簡単だが、それだけでは不十分である。一つひとつの決断に自分の気持ちを込めながら、相手の気持ちを共感して語りかけるという作業が必要になってくる。
そこで、リーダーには「ストーリーテリング」という手法を学ぶことをおすすめする。
パワーポイントによって論理的に構成された書類、データやファクトを利用して裏付けられた客観的な説明など、ビジネスの世界で欠かせないプレゼンテーションツールはたくさんある。しかし、これからは、あなた自身の言葉で語る「ストーリー性の高い」プレゼン力を養ってほしい。伝えるべきことを、自分の言葉としてイキイキと語る、そして、聞き手に共感や想起・想像をもたらすことがねらいである。たとえば、自分の強みと弱みを軸に、感情をさらけ出しながら体験談を語るのだ。
難局に直面したときも、ストーリーテリングは有効である。B氏の場合でいえば、あえてクールで完璧なエリートというお面を脱ぎ捨て、自分の弱さや心の痛みをさらけ出してみるとよかったのだ。たとえば、こんな風にである。
「今回の案件では判断を誤り、皆に迷惑をかけてしまった。日ごろ、私は判断力に自信があると思っていたゆえ、今回の失敗は本当に悔しかった。皆にも迷惑をかけたということで、さらに心が痛んだ。眠れない夜もあったよ。こんな失敗を2度と犯すまいと誓い、今回の原因について徹底的に調べたんだ。するとね、こんなことが判明したんだ……」
ミスを素直に認め、謝罪したうえで、原因追究の結果を語る。こうすれば、今回の失敗をバネに部下たちとも、さらなる信頼関係を築けたはずである。
一瞬にして部下の心を捉える男に学ぼう
最後に、私が実際に体験したデキるリーダー・エピソードを紹介したい。
業績不振が原因で、大掛かりなリストラが行われた企業があった。多くの社員や取引先は、血を流すことを余儀なくされた。その後、解雇されなかった社員が一同に集められ、「再生」に向けての決起集会が催された。
集会冒頭では、会長が開会の辞を述べた。しかし、これが思いのほか長かった。会長は、様々なマクロ経済データなどを並べ立て、今後の組織の将来は有望であると説いた。社員たちは下を向いたり(寝ていたのかもしれない)、腕時計を見たり、携帯電話画面をこっそり見ていたりと、明らかに退屈していた。
次に登壇したのが、社長だった。社長はマイクの前に立つと、まず大きく深呼吸をした。そして静かに言った。
「みんな、ここ何ヶ月か、つらかったな……」
その瞬間、社員全員が顔を上げ、息をのんだ。静まりかえる会場内で、30秒間、社長と社員が見つめ合ったのだ。目に涙を溜めているものもいた。その後、社長は今後の戦略などを語り始めた。
「アライメント」が生じている空気を、はっきりと感じた瞬間だった。美しかった。
経営者はもちろん、デキるビジネスパーソンに欠かせない「判断」や「戦略立案」には、冷静さや客観性が必要だ。しかし、リーダーとして人々を束ねるには、社員の心を惹きつける術も身につけていかなくてはならないのである。
●次回は「心優しいタイプ」なリーダーをご紹介します。
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筆者紹介
黒田由貴子 Yukiko Kuroda |
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