デキるリーダーの落とし穴

(2009/11/24)
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「計画的で着実なタイプ」が陥りがちな

“カンチガイ”リーダーシップとは?


p01_02.jpg E氏は、子供のころから綿密に計画し、着実に行動することで目標を達成してきた。某有名大学に進学するという目標も、その大学で成績優秀賞をとるという目標も、某有名金融機関に就職するという目標も、すべて達成できた。

これは、E氏は高校生のときに読んだある本のおかげだった。ある成功した経営者が書いた自伝で、そこには、「まず目標を定める。そこから逆算して、やるべきことを時系列に書き出す。あとはそれにしたがって行動するのみ。そうすれば夢は必ずかなう」と力強く語られていた。その本はE氏のバイブルとなった。E氏は旅行のときもぬかりがない。ホテルや交通機関はもちろんのこと、レストランやショップなども調べあげ、必ず満足いく旅行になるよう、周到に準備した。自分が立てた計画どおりにことが運ぶことがE氏の何よりの喜びであった。

しかし、主任、課長、部長とE氏の立場が上がるにつれ、計画どおりに行かないことが増えてきた。特に、予算が達成できないことが相次ぐようになった。いくらE氏でも、立場が上になり守備範囲が広くなれば、計画は多くの人に依存し、前提条件は複雑となり、計画の精度を上げるのは至難の業となる。最近では、マクロ経済指標も激しく変動も原因の一つに加わった。

伸び悩む業績の打破のために、E氏は新規市場の開拓も託された。E氏にとってはまったく未知の領域。どうしたらいいのかわからない。どんな計画を立てればよいのかもわからないのだ。

焦燥感がつのるE氏は、部下にあたるようになった。部下にしてみれば、予算が未達成で、自らも落ち込んでいるところに、E氏から圧力をかけられ、モチベーションは下がる一方だった。もちろんE氏だって、部下をほめたりねぎらったりしてやりたい。しかし、予算が達成できていない中で、そんな言葉をかけても空虚な気持ちになるだけだと思ってしまう。実のところ、一番、気持ちが落ち込んでいるのはE氏自身だった。
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「何とかなる」「自分はできる」
といったポジティブな思考を習慣にしよう


E氏は2つの状況変化に直面している。1つは、職位が上がることで課題がより複雑化していること、もう1つは外部環境の変化が加速化していること。その両方が不確実性を増し、E氏の不安やいらだちにつながっている。

しかし、この2つはリーダーなら誰しもが直面することだ。リーダーとして成功するためには、不確実性を前に恐れたり、うろたえたりしてはいけない。課題に対して、やるべきことが明確な時代は終わった。だから学校での優等生が、仕事でも優秀とは限らない。受験勉強では、勉強すべきことは明確だ。しかし、不確実性な時代の今日においては、物理の試験だと思ったら日本史の質問が出てきたというくらいに、予測不可能な課題にも対応できなければならない。

慶應義塾大学の高木春夫教授も、従来のモチベーション理論には、「仕事を始める前に、その仕事がどのようなものかがわかっている」ことを前提としていたが、その前提が成り立たなくなっていると指摘している。

これまでリーダーは、メンバーに明確な目標を与え、彼らが目標に向けてやるべきことをやっているかを観察し、目標達成できれば報酬を与える、あるいは、ほめるといったことで、メンバーのモチベーションを上げてやることができていた。しかし、今は違う。リーダーとて、どこに向かうべきかわからなかったり、何をすべきかわからない状況もめずらしくはなくなった。そんな時、どのように皆の士気を高めたり維持したりすればよいのだろう。そして、E氏は自身のモチベーションをも、上げなくてはならない。

E氏に、バンデューラという心理学者の提唱する「自己効力感」という考え方を紹介しよう。自己効力感とは、「ある結果を生み出すために必要な行動を、自分はうまく行うことができるという信念をもった状態」のことである。ざっくり言えば、「なんとかなる感」といったところだ。自己効力感が強い人、すなわち「なんとかなるさ」と思える人は、未知で困難な状況にも立ち向かえるし、試行錯誤しながらだんだん見えてくるというプロセスそのものを楽しむことができる。試行錯誤している以上、うまくいかないときもある。しかし、それは「こうするとうまくいかないことがわかった」という風に考えれば、自己効力感は高まる。

一方、自己効力感が弱い人は、計画どおりにいかなかいかもしれないことを常に恐れていて、なかなか一歩が踏みだせない。踏みだしてみて、やはり計画どおりにいかなかったときにはがっくり来てしまう。そこで、E氏は自分にこう言い聞かせてみよう。「先が闇で見えないのは、みな同じ。踏みだすことで、先に何があるかが初めてわかる。踏みだしてつまづいたら立て直せばよい。その力が自分にはあるのだから」

さらに、E氏がメンバーのモチベーションを高めるために、次の2つの策がある。

(1)メンバー同士の経験と、経験から得られる示唆についての情報交換を頻繁に行う

これは、「代理体験効果」といって、他のメンバーが成功したことを聞けば、「そうか、やればできることもあるのだ」と自分の効力感が高まる効果がある。タイムリーに継続的に行うことが、モチベーション維持につながるので、短いミーティングやイントラネット、携帯電話など、適切なツールを活用して、気軽に情報交換できる場を設定するとよい

(2)ポジティブな言葉をかけ合う。

「君ならきっとできる」とか「自分たちはやれる」といった信念を言葉にするのだ。E氏のような、着実で計画的なタイプには、根拠なき励ましは、抵抗があるかもしれない。しかし、これも「言語的説得効果」といって、自己効力感を高める効果があるのだ。

オバマ大統領が、Yes, We Can! をアメリカ国民と連呼していたのも、心理学的にいうと有効な手段だったというわけだ。Eさん、君にもきっとできるさ!

●次回は、「誰とでも打ち解ける社交家」なリーダーを紹介します。

筆者紹介

黒田由貴子 Yukiko Kuroda
慶應義塾大学卒業後、ソニーに入社。ハーバードビジネススクールにて経営学修士(MBA)取得。現在は、ピープルフォーカス・コンサルティング代表取締役として、組織やリーダー開発に関するコンサルティング業務を精力的に行っている。
http://www.peoplefocus.co.jp/professionals.html
http://pfcod.exblog.jp/

『ファシリテーター 甦る組織』 (芦崎治著)

 

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