「FX」が日本で産声を上げたのは、約10年前。橋本元首相によって「金融ビッグバン」が敢行された数年後のことだった。当時は、いわゆる「外為法」が改正され、銀行にしか認められていなかった外国為替業務が解禁となり、自由な相対(あいたい)取引が認められ始めていた。「○○○カメラ」や「○○○や」といった町の家電量販店で、“通貨の両替ができる”といった宣伝や報道がなされていたことを覚えている方も多いだろう。
この「規制緩和」の時代に、FXは日本に「導入」されたのである。
「導入」とは、欧米や東南アジアなどの一部の投資家に提供されていた通貨の差金決済取引が、「日本仕様」となって持ち込まれたことを意味する。差金決済取引は、通常、投資する資金以上の取引を行うことができる「レバレッジ」を掛けて行われる。つまり、100万円の資金を投じて1000万円の取引をするようなものだ。投資家は、実際にその元本取引(たとえば、ドルに換金するなど)自体は行わない。差金決済取引は、FXに限定されることはなく、株式や金、原油といった商品をはじめ、あらゆる市場商品に適用できる仕組みである。現在、世間で見かける「CFD」こそ、まさにこの差金決済取引のことだ。
さて、話を10年前に戻すと、当時は日本銀行がゼロ金利政策をとり、株式市場、不動産市場も低迷の一途を辿っていた。預金、株、土地……どれをとっても、投資妙味のないものばかりだった。そこに現れたのが、「FX」である。元本割れリスクこそあるものの、投資資金以上の取引で為替差益を狙いながら、「スワップ」と呼ばれる金利差相当の金銭を受け取ることができる、当時としては新鋭的な取引だった。
同じころ、ゼロ金利の日本円を高い金利の外国通貨に交換して、金利差額を受け取る「キャリートレード」という投資手法によって、巨額な運用を行うヘッジファンドが世界中を席巻していた。円安外貨高が主流であったのだ。
個人投資家は、まさにこの流れに乗ることができた。米ドル買い円売り、豪ドル買い円売り などを行っていた彼らの資金は瞬く間に膨れ上がり、100万円が500万円に、1000万円が1億円に……と、急速な“FXバブル”が生まれかけていたのである。
読者のみなさんの中には、利益金を申告せず、脱税容疑で検挙された人々のニュースを覚えていらっしゃる方も多いと思う。当然、この商売に他業態が目をつけないはずはなかった。FX専業での開業はもちろん、証券会社、商品先物取引会社、銀行などが後を追った。また、FXとオンラインとの相性のよさが決め手となり、インターネット系システム会社もFX業界に続々と参入、当時は、推定400社以上もの企業が軒を連ねた。さらに、2005年までには、市場規模も4000億円相当にまで急拡大。それこそ、キモノ(着物)トレーダーと称された日本の主婦たちが市場に参入した時代であった。
しかし、法規制のない市場は金融倫理を駆逐する。
規制がなく、投資家が気軽に資金を預け、その何倍もの取引を行う。そんな仕組みに乗じて、投資家から受け入れた資金を悪意で流用したり、持ち逃げしたりする不道徳な業者が次々に現れた。消費者センターには、FXに関する苦情が年を追うごとに急増していったのだ。
ある業者は、投資家からのFX注文をすべて受け入れたことが原因となり、相場で大きな損失を出した。経営復興のため、それをまた別の投資家の資金で補填したが、結果的に業者は破綻。その際、投資家の手元には資金がほとんど返ってこなかったという。
また、ある業者は、投資家から受け入れた資金を海外のFX会社に預け替えていたところ同会社が破綻した。そして、彼らは資金を持ち逃げしたのである。もちろん、投資家には資金が戻ってこなかった。
規制のない投資市場において、「投資家」が犠牲になってしまったケースが数多く生じていた。
こうした事態を重くとらえた金融当局は、投資家を保護するべく、ついに「FX規制」に踏み切った。それが、2005年から施行された「改正金融先物取引法」である。
業者による金融庁への登録、財務基盤の拡充、投資家の資産の区分管理などが義務化され、不招請の勧誘が禁止された。この段階で、400社近く存在していたFX業者は、120社前後にまで淘汰された。2007年には、金融先物取引法を含む証券取引法は「金融商品取引法」 へと改正され、運用されている。
しかし、それでも業界淘汰は終わらないのである。
その後も、業者の虚偽申告や違法行為が絶えなかったからだ。金融庁への登録申請を虚偽記載したり、月次での自己資本規制比率(業者の財務状況を表す指標)の申告に虚偽の内容を報告したり、投資家の資金区分管理の疎漏、不招請勧誘の実施……など、証券取引等監視委員会による監査で、勧告を受ける業者は少なくなかった。そして、その多くが行政処分を受けた。
2005年に改正された金融先物取引法施行以降、行政処分を受けた業者は79社(2008年11月現在)あり、そのうち58社が区分管理義務違反であった。投資家保護という観点だけでも、法令遵守への意識の薄さが感じられる。
2008年に勃発した米サブプライムローン問題やリーマンブラザーズ証券の破綻によって生じた、「100年に1度」とまで言われる昨今の金融危機においては、これまでの円安地合(相場の状態)が一気に崩壊。世界主要各国も日本と同様にゼロ金利に近づき、結果、「スワップ」を受け取る利益モデルが崩壊していった。
しかし、FX業者は、ここで一計を案じたのだ。
「円安地合は続かない。そこで、短時間であれば、円買い外貨売りでも儲かりそうな仕組みを提供しよう」と……。それが、「極端な高レバレッジ」「極端な低スプレッド(業者が提示する買値と売値の差)」「取引手数料の無料化」である。
取引手数料が"無料"であるということに惹かれた投資家は、レバレッジを上げることで、少ない資金で極端に巨額な資金を動かすおもしろさを知った。また、スプレッドも小さいため、1から2銭のわずかな為替差益も狙えるという、いわば、為替ディーラーのような錯覚を起こさせる仕組みも、彼らを魅了する要因のひとつとなった。
現在は、「FX=オンライン、高レバレッジ、短期売買、取引コストゼロ」というのが常識となりつつある。そのうえ、巨額な取引がインターネット上で、まるでゲーム感覚で行えるのだから、まさに、「投機」そのものなのだ。
投資運用商品ではなく、金融商品のひとつとしてFXの仕組みとリスクを理解し、極端なレバレッジをきかせ、瞬時に投資資金以上の損失を被る可能性のある「投機」を許容するのが、現在のFXである。投資家たちの勝負心を刺激するはずだ。とはいえ、投機の許容範囲については、これからますます認識すべき社会問題となるであろう。

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筆者紹介
相葉 斉 Hitoshi Aiba |
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