大人の人生マニュアル

(2010/05/10)
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私は常々、子どもの頃に養うべきチカラは「集中力」と「バランス感覚」だけだと書籍の中で述べてきた。

「集中力」は分かりやすいから説明はいらないと思うのだが、「バランス感覚」は誤解を生みやすい言葉かもしれない。

ここでいう「バランス感覚」は、左右の均衡をとるヤジロベエのようなチカラのことではない。

地面と自分のカラダの物理的なバランス(ボールゲームであれば、ボールと自分の関係や手足のバランス)。置かれた環境と自分の意識のバランス。人間関係の中での自分のポジショニングをどうとるかのバランス。

そうしたこと全てを指している。
ようするに、自分と他者を含んだ環境との関係性について、上手くバランスをとるチカラのこと。これは、いくら勉強しても身につかない。

どれだけ遊んだか、が勝負なのだと思う。

物理的なバランス感覚が悪いから、前に転んだ時に手をつくことができず、鼻を折る子がいる。サッカーでも、ちょっとタックルされただけで、手をついた時に手首の骨を折ってしまう。空き地もないし、遊ぶことで転ぶ練習ができないとすれば、柔道の受け身を体育の授業の必修に入れるしかないのだろうか。

しかし、それより問題なのは、同じくナマの遊びが足りないことで、人間関係のバランスが悪い子が増えている事実だ。

友だちを仲良し(チーム)と無視(チーム外)に二分してしまうこと。グレーゾーンがないから、人間関係が固くなる。

ちょっとした言動で傷ついてしまうこと。兄妹や地域社会でのナナメの関係(オニイちゃん、オネエちゃん、オジさん、オバさん、オジイちゃん、オバアちゃん)で揉まれていないので、コミュニケーション技術が育たない。

ディベートのような意見のバトルに慣れていないので、意見や批判をそのまま人格の否定と勘違いしてしまうこと。あるいは逆に、人格を否定するような言動でしか(メールや掲示板への書き込みを含む)自分の意見の表明ができない子の増加。

長じては、ちょっと知り合うと「友だち」と思ってしまって妙に馴れ馴れしかったり。逆に、遠慮し過ぎでコミュニケーションがまだるっこしかったり。名刺交換しただけで、自分の人脈と勘違いして勝手にメルマガを送りつけてきたり。

ようするに、「距離感」がわからない人々が増えているのだ。
これも、総じて、バランス感覚の障害である。

人間関係を良好に保つコツは、コミュニティのところで述べたように、(1)名刺や肩書き抜きのフラットなコミュニケーションと(2)やり過ごす寛容さ、だ。
さらに、私の第三の奥義を示せば、「貸し借りを作らないこと」である。

私のネットワークは、基本的には飲み会だったり、趣味で築いてきたものではない。すべて、なんらかの仕事をやった仲間たちだ。

「新規事業を立ち上げる」「新しい学校支援の組織を作る」「[よのなか]科のゲストとして毎年お迎えする」「共著で本を出版する」「闇の中での婚活イベントを企画し実行する」・・・コトを起こすたびに、ドリームチームが増殖していく。

そこで大事なのは、自己犠牲で参加する人がいないこと。みんなが楽しめるか、苦しくても成長実感があり達成感が共有できること。一方的に誰かが負担するのではなく、貢献した分、なにかほかのことで「お返し」があること。

学校に来てくれるゲストティーチャーの例で言えば、子どもたちの素直な驚きや感動で癒されたとか、給食が美味しかったとか、音楽室で聴いた歌が心にしみたとか、小学校の図書室の小さな椅子が懐かしかったとか。

お返しの仕方は、いくらでもある。

「スイマセン、お願いします!」と借りをつくっているだけでは、ネットワークは維持できない。

金銭を扱う場合は爽やかな割り勘がコミュニティの鉄則だが、「負担」や「貢献」という目に見えない通貨についても、貸し借りを残さないほうがいい。

プロジェクトごとに、「楽しかったね!」と語り継がれるように気を配っていけば、あなたのネットワークは必ず豊かに広がっていく。

柔らかく、深く。



筆者紹介

藤原和博 Kazuhiro Fujihara
前杉並区立和田中学校校長
大阪府知事特別顧問
東京学芸大学客員教授

1955年生まれ。東京大学経済学部卒業後、リクルート入社。2003年4月より、都内では義務教育初の民間人校長として、前杉並区立和田中学校校長に就任。現在は、橋本大阪府知事より教育部門の特別顧問を委託され、大阪の小中高の活性化と学力アップに力を貸している。『「ビミョーな未来」をどう生きるか』『新しい道徳』(ちくまプリマー新書)、『校長先生になろう!』(日経BP社)など著書多数。
http://www.yononaka.net

『35歳の教科書』 (藤原和博著)

 

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