大人の人生マニュアル

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じつは、その後、ビジネスパートナーであるコスタンテの清水社長から嬉しい知らせが届いた。

壊れて直せないはずの「ロードマチック」が、諏訪の時計師たちの手で蘇るというのである。ちょうど、成人した長男がケータイだけでは不便だからと腕時計を欲しがっていた。しかも、今風のゴテゴテしたクロノグラフは好きじゃないらしい。シンプルなデザインで、クオーツではなく、機械式の自動巻きがいいという。

40年間私の腕にあった「ロードマチック」が、再び息を吹き返した日、私はそれを息子の成人式のお祝いに贈った。「お父さんが40年間使ったから、あなたが10年使えばもうヴィンテージ入り。万が一孫まで合わせて100年使ったら、クラシックとしてスゴイ価値が出るかもよ」と。

今日、その息子は、下北沢の商店街にある私の中学時代の同級生の時計屋さんで、金属のベルト部分をちょっとだけ短くしてもらってきた。

昔、テリー伊藤さんと一緒にリクルート主催の「転職セミナー」のトークショーで話したことを想い出す。
テリーさんの「就職面接のときに、人事部長が気にすることって、なんなんでしょうねえ。いろいろあると思うんだけど、一番大事なことって」という質問に、

私は「クレジットでしょうね。なんとなく、この人は信用できると思えるかどうか」と答えた。

テリーさん「資格なんかは役に立つんですか?」

私「目的もなく資格を集めたりする資格オタクはダメ。私自身はホームヘルパー2級をもってるんだけど、これは、親が介護状態になった時でも役立つし、最低限の食い扶持にはなりますよ。」

テリーさん「なるほど、2級ヘルパーか。宅建主任とか中小企業診断士よりシブいけど。でも、なんといなく、この人しっかりしてそうだなあと思えますよね(笑)。信頼性が、わけもなく増しちゃうっていうか。」

私「そうそう、クレジットが上がるんですよね。」

スーツとワイシャツとネクタイ、靴と鞄、そして腕時計も、ビジネスパーソンにとっては、信頼と共感を勝ちとるための「戦闘服」だ。

「武力」ではない「品の良さ」で、「クレジット(あなたに与えられる、顧客や関係者、あるいは恋人や家族からの”信任の総量”)」を勝ち取るゲームである。

だから、「戦闘服」には、あなたに似合う「気品」と「風格」が必要だ。

だとすれば、ブランドものの既製品で身を固めるより、あなたに合ったオーダーメイドのほうがいい。

全部にお金をかけることなどできないから、1点豪華に投資して、あとは徹底したディスカウンター利用の合理主義でOKだ。
あなたがもしラッキーにも、お父さん、お母さん、お爺ちゃん、お婆ちゃんから相続したり継承したものがあるのなら、そのお古を大事に使うことも、あなたのクレジットを高める。

古いものを大事に使っている人は、人事部長から見ても「しっかりした人物」の印象が強い。だから、就職面接の時には、お父さんやお爺ちゃんからもらった古時計を腕にして臨もう。緊張が極まった時の、お守りの役も果たしてくれるはずだ。

私自身は、腕時計が40年もの、クルマはつい最近まで20年ものだった。コッパンは10年、スーツは15年もの、ジャンパーは20年ものだ。

懐かしい人になりたい、と思う。
懐かしさを漂わせた人には、人が自然に寄ってくるか。

筆者紹介

藤原和博 Kazuhiro Fujihara
前杉並区立和田中学校校長
大阪府知事特別顧問
東京学芸大学客員教授

1955年生まれ。東京大学経済学部卒業後、リクルート入社。2003年4月より、都内では義務教育初の民間人校長として、前杉並区立和田中学校校長に就任。現在は、橋本大阪府知事より教育部門の特別顧問を委託され、大阪の小中高の活性化と学力アップに力を貸している。『「ビミョーな未来」をどう生きるか』『新しい道徳』(ちくまプリマー新書)、『校長先生になろう!』(日経BP社)など著書多数。
http://www.yononaka.net

『35歳の教科書』 (藤原和博著)

 

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