大人の人生マニュアル

(2009/11/10)
人生マニュアル-1110-01.jpg 私が株式投資にはまったきっかけは、20代のとき。縁があったトーヨーサッシ(トステム、INAXトステム・ホールディングスを経て現在は株式会社・住生活グループ)の転換社債で100万円が、あっという間に120万円になったことだった。

自分の実力でもないのに、株(社債などの金融資産含む)の値上がりに酔った私は、バブル期ということもあって投資に舞い上がり、結果的に大損をした。

具体的に書かなければ分からないだろうから、恥をしのんで、銘柄も当時のままに明記してみよう。20年以上も前の話ではある。土地の規制緩和が、簿価の低い土地資産を埋蔵している重厚長大企業の株価を押し上げるとともに、民営化される国営企業株価の上昇が期待されてもいた。

私は、友人の奨める東京電力の株と、証券会社の奨める日本信販のワラント債で、見事に討ち死にしてしまった。東京電力の現在の株価は2000円強。当時は、1万円を超えるだろうなどと噂されていて、私は9000円を超える額で買ったのだ。それがみるみる落ちていき、結果的には最高値に近いところで買ったことに。まことに間抜けだった。

そこで……

教訓1: 噂話に乗って買ってはいけない。素人の耳に入る噂話はいつも最後にやってくるから、とっくにその話の賞味期限は過ぎている。

ワラント債については、ちゃんとした知識も無く勢いで買った。レバレッジが利いて大きく儲かるが、大きく損する商品でもある。案の定、揺れ戻った時に証券会社の営業マンに電話をしたが、不在だったので相談できず、売り逃がした。泣く泣くあとで損切りすることに。

教訓2: 証券会社がすすめてくる商品は、法人が仕込んで値上がりを待ち、それを売り逃げるタイミングであることも多い。この場合、買えば下がる。

2社につっこんだお金は800万円程度で、それが300万円くらいに減った。500万円の損。しかも、このお金は、母親に「みんなやってるから、儲かってるから、安心だから」などと、(後から考えれば)ウソ八百をならべて出資してもらったものだった。

損をしてからわかったのだが、大部分は、母方の祖母(小さい頃から呼んでいた名でいえば「赤羽のおばあちゃん」)が、西武デパートの掃除婦として、長年働いたお金から、「カズくん(私)が何か困ることがあったら渡しなさい」と母に遺言したものだったのだ。

最低の話である。

人生マニュアル-1110-02.jpg こうした失敗の合間には、ちょっとした成功も互い違いにやってくる。最初のトステムもそうだが、NTTの株を220万円台で買って240万円台で売り抜けていい気になってみたり。

だから、怖い。

結局、早い時期にイタイ目にあったので、本格的なバブルの崩壊に合う前に、株式市場でいい加減な買い方をすることからは退散することになった。この後、知人の起業した会社に投資したものも、2社ほど倒産したから、株式では、総額で1千数百万円損をした。

なあんだ、と読者は思うかもしれない。「損をしただけの人物から学ぶことはない」と。

それでも……

教訓3: 日本の教育では、けっして「引き際」を教えないから(ガンバリ続けることだけを教えられる)、損を切る勇気が必要。儲かっていても、もうここまで、というクールさも。

では、今度は、儲かったほうの話。

シートゥーネットワーク(昔は築地の乾物屋「マスシン」、現在はオーナーが外資に株を売ったので「テスコジャパン」。カップラーメンなどを買うのに、ディスカウントの「つるかめランド」にお世話になっている読者も多いのでは?)の株は、微笑みながら語ることのできる物語だ(ようやく、微笑み)。

旧オーナーとはリクルート時代から縁があったので、上場した時、付き合いで1000株買ってみた(未上場株ではなく、公開後の通常買い付け)。2000円強だったから、1000株で200万円だ。

じつは、そのことをずっと忘れていて、43歳で家を建てることになった時、現金をかき集める必要が生じ、ふと、株をもっていたことを思い出した。ところが、なんと信じられないことに、株価は10倍に。一部上場銘柄になっていて、2万円台だという。

土地の入手で振り込み期限があったから売ったのだが、その直後からさらに上がり始め、売値から5000円も上昇。こういうときには、人間の欲深さが出るもので、私も、まるで500万円損したかのように悔しかった。

もし、私が株価を細かく注視していたら、3割上がったところで喜んで売っていただろう。その結果、利益は60万円。しかも、その後、破竹の勢いで3万円近くまで上がることなるから、悔しさも10倍以上。心臓バクバク、顔が真っ赤になって、病気になっていたかもしれない。とにかく、この一発の(結果論だけの)成功で、私の損はチャラになった。

教訓4: 長期保有を前提に、忘れているくらいがいい。

人生マニュアル-1110-03.jpg 株式市場は、いまや、プロ市場になった。バブル以前のように、アマチュアが遊べる市場ではなくなったのである。日本全体が成長市場型の発展途上国では、もはやなくなったから、堅いところを保有していれば長期的には必ず上がるというわけでもない。だから、デイトレードのように毎日自分でウォッチしてプロ並みに細かくやるか、パフォーマンスの良いプロを見極めて任せるしかなくなった。

でも、私は、その両方とも嫌いなのだ。

毎日観ていたら神経症になってしまうだろうし、他人に任せたら、私がここで語っているような「物語」がファンドマネジャーに奪われてしまう。

では、どうするか?

教訓5: 『縁のある株』つまり、「自分で株価に影響を与えられる株」「損しても自分の責任もあると慰められる株」「自分の哲学に合う株」しか買わないこと。

私の場合は、リクルートの株と、テニス仲間の友人が社長を務めるK社の株がこれにあたる。
 
まず、自分が仕事をする会社の株を買うこと。未上場の場合にも、たいていは社員持株会があるだろう。私なら、「社員が我が社の最大の資産」とか「社員第一主義」とかを掲げている企業が、もし従業員に株を持たせない資本政策をとっていたなら、その経営者を信用しない。ちなみに、リクルートでは、社員持株会がずっと筆頭株主であり、社員が自分の会社であると実感できる体制を続けている(一時期は37%以上あったし、現在でも19・3%の筆頭株主)。

自分が仕事で頑張って会社の業績が伸びれば、非公開でも社内の取引価格が上がり、資産形成につながる。もちろん株式を公開することになれば、大儲けもある。

エルメスやグッチやヴィトンのようなブランドが好きな人は、消費者として人気商品を高値で買いまくるのではなく、そろそろ(公開されているなら)その会社の株を買おう。みんなに人気があるということは儲かっているのだろうから、端株だろうとなんだろうと、経営者の一画に食い込んで、投資家として振る舞ったほうがカッコいい。それが本当の「セレブ」というものなのではないだろうか。

K社の株は、けっこう細かく買ってみた。1200円だったのだが、いつものとおり(買うと下がり、売ると上がるという株式市場では誰もが経験する鉄則通り:苦笑い)ドンドン下がった。自らの平均購入株価が600円になるまで買って落ち着いたのだが、こういうときでも「なんで360円までドーンと下がった時に1万株とか買えなかったのか後悔が残るもの。

「価格が低いところで買って、高いところで売る」という商売の黄金律を常に実行できる人は、そうそういらっしゃるものではない。下がっている局面では「もっと下がるのではないか!」と恐怖するから、なかなか買えない。上がっている局面では「もっと上がるのではないか!」と欲が出るので、なかなか売れない。

下がり基調から反発して上がってから買い、上がり基調から反発して下がり始めてから売る」という当たり前のことも、なかなか素人にはできない。だから、哲学がいる。

K社とは、良い縁ができた。もともとは新卒の採用で大きな仕事をいただき、会社案内を作らせてもらった時に、広告費として投資してもらった分に見合う責任を共有するために株を買った。そして、いつしか経営陣の方々との交流が深まり、本社屋上のテニスコートをお借りしたり、私がデザインした時計をモデルに、周年行事の記念品を作るのに協力したりと、いまも私とK社との物語は増殖中だ。

つまり私は、株に投資することで、単純な利ざやではなく、関係性のなかに紡がれる「物語」という資産を買ったのである。

●次回は「藤原流<車の話>」をお届けします。

筆者紹介

藤原和博 Kazuhiro Fujihara
前杉並区立和田中学校校長
大阪府知事特別顧問
東京学芸大学客員教授

1955年生まれ。東京大学経済学部卒業後、リクルート入社。2003年4月より、都内では義務教育初の民間人校長として、前杉並区立和田中学校校長に就任。現在は、橋本大阪府知事より教育部門の特別顧問を委託され、大阪の小中高の活性化と学力アップに力を貸している。『「ビミョーな未来」をどう生きるか』『新しい道徳』(ちくまプリマー新書)、『校長先生になろう!』(日経BP社)など著書多数。
http://www.yononaka.net

『35歳の教科書』 (藤原和博著)

 

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