大人の人生マニュアル

(2010/03/10)
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まず、本が嫌いだった少年の物語から。

私がまだ幼児だった昭和30年代、「もはや戦後は終わった」と宣言され、ハードウエアを中心とする街の復興にめどが立った。「三丁目の夕日」で描かれた東京タワー(昭和33年完成)はその象徴で、いよいよ日本は高度経済成長期に入る。

公務員や会社員などの中流家庭は、続々と建設される10・5坪(約35平米)がワンユニットの2DKのモデル住宅に入り、冷蔵庫、洗濯機、掃除機を買い揃えることになる。いまでは当たり前だが、風呂屋に行かなくてもいいように「おウチに風呂がやってきた!」ことに誰もが興奮した。

テレビ、ステレオ、電話機が家にやってきた後、子ども部屋のあるなしにかかわらず本棚や勉強机も。クルマやエアコンやコンピュータは、まだまだあと。アパートの誰もが競うように買いそろえていく「みんな一緒」の人生ゲームのはじまり、はじまり。

そして30年代の後半からは、ソフトや教育への投資が始まる。本棚には、大人向けの本の他に、教育熱心で多少余裕のある家庭から、こども世界文学全集や百科事典が並べられた。

私の家も例外ではなく、『小公子』から始まる20冊程度の全集を父が(たぶん、給料天引きで)買ってきて、その日から母が毎晩、本の読み聴かせをしてくれるようになった。ふとんで私が寝付くまでの間のことだ。

いまなら胎教で文学やモーツアルトを聴かせる親もいるだろうが、当時としては珍しかったかもしれない。専業主婦で一人っ子だったからできた、ともいえる。こうきけば、順調に本好きな少年が誕生するはずなのだが、そうではなかった。

小学校の高学年から中学校で読まされた課題図書が、私の読書人生に一大転機を促す。一言でいえば、本が嫌いになり、読まなくなっちゃったのだ(苦笑)。

中学、高校とろくに読書をしなかったから、大学受験の現代国語ではかなり苦労した。「Z会」の添削のお世話になっていたけれど、「なにボケてんだ!」と赤字で叱咤激励されたことも。

原因はルナアルの『にんじん』とヘルマン・ヘッセの『車輪の下』である。名作に対して失礼は重々承知しているので断っておくが、本自体が悪いのではない。当時の訳とか、私の読み方が悪かったのだとは思う。
でも、まったく面白くなかった。

→草食系男子はご用心!?

筆者紹介

藤原和博 Kazuhiro Fujihara
前杉並区立和田中学校校長
大阪府知事特別顧問
東京学芸大学客員教授

1955年生まれ。東京大学経済学部卒業後、リクルート入社。2003年4月より、都内では義務教育初の民間人校長として、前杉並区立和田中学校校長に就任。現在は、橋本大阪府知事より教育部門の特別顧問を委託され、大阪の小中高の活性化と学力アップに力を貸している。『「ビミョーな未来」をどう生きるか』『新しい道徳』(ちくまプリマー新書)、『校長先生になろう!』(日経BP社)など著書多数。
http://www.yononaka.net

『35歳の教科書』 (藤原和博著)

 

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