(2010/05/24)
今回の相談者
IT企業社長(車好き) (45歳)
無税で最高級車を乗りまわそう <その10>
車好き社長: 先生、どちらのシミュレーションがよいのでしょうか。
税理士: 初年度から売上を立てて均等に返済していく計画は、確かに美しく安定感もあります。2年間営業活動をして、準備期間を持ったケースは、一見、緊張感がありますが、しかし結果的には、前のケースより2倍の業績をあげられる経営力をつけることになります。
車好き社長: 端的にどちらが正解であると言い切ることはできないのですね。同じ資金調達額でも、そのねん出方法は幾通りもあります。一番わかりやすいのは銀行から借りることです。しかし銀行はそう簡単に貸してはくれません。そこで返済期限のない資金を親族から借り受けるケースもあるでしょう。
また、志が固く創業までの行いが勤勉であれば、ある程度の自己資金は準備していることでしょうし、信用により出資者が集うこともあるでしょう。そしてその調達方法や調達先によって、支払利息の額は、当然、まちまちになります。その幅は広く高利貸しかのような金利設定の金融商品から、利息がかからないケースまで考えられます。
いうまでもなく金利が高い調達ほど借りての信用は薄く、金利が低い調達ほど借りての信用は高くなります。誰でもなるべく金利のかからない調達を選択したいでしょう。しかし実際は、大きな金利差のある資金調達方法が社会にはいくつも存在しています。金利の高い資金の調達は、より容易で、金利の低い資金の調達はより難解になります。
どの調達方法で今回の資金集めが達成されるか。それは、その経営者の生い立ち、その人自身の社会背景などによって大きな影響を受けることが少なくありません。原因と結果の法則のようなものともいえます。
自らが目指す経営に最適な資金を、最良と思わざるをえない方法によって調達し、結果、金額・金利面からも満足せできたとしても、その調達資金が、その経営者に富をもたらす原資として活かされるのかといえば、必ずしもそうとは限りません。経営者の人格が、その後の経営に最大の影響を与えるからです。
よく経営者は、事業が順調にいかない理由を外部に求めがちです。しかしそうとばかりは言えません。実際、この大不況下にあって、同業で同規模の法人でありながら、片方は廃業寸前、もう一方は無借金で、承継者もいて、生き残る条件を備えているという企業があります。
「経営とは人生そのものだ」という言葉がありますが、まさにそうでしょう。経営者の資質が生む事業のスタイルによって、中小企業の業績は、中小企業経営者の数だけ変わっていくのではないでしょうか。
税理士:経営者の人格が経営に最大の影響を及ぼすというのは興味深いですね。創業を志して私の事務所のドアをノックされる方と繰り返しお会いしますが、経営者には向かないのではないかと直感的に思える方は以外に多いものですね。
車好き社長: 当初の資金調達の結果は、すべてその経営者自身のこれまでの人生が因になった結果だと思います。急に経営したくなったからなどという思いつきで、事業は起こせるものではありません。
税理士: 1円でも会社を起こせる時代ですけどね。
車好き社長: そこが落とし穴です。それは法律がそうなっただけのことです。市場がその制度を受け入れているということではありません。仮に資本金が1円だとしても、登記の申請等の費用がかかります。これはあくまで制度に支払うコストです。司法書士に丸投げすれば、さらに報酬が発生します。実質、経営の入口から1円では会社は作れないのです。
税理士:やはり入念な資金計画から始めなければならないということですね。
車好き社長: 知り合いの経営者に、1年間売上ゼロでも家賃を支払える資金を用意してから不動産屋に足を向けた、という人がいます。いまでは周りがうらやむほど安定した経営をしています。もちろん無借金です。
税理士:その方は、はじめから無借金の発想で経営をスタートしていますね。まず借金してから始めようという方は、そうした手順は踏まれないでしょうね。しかし借金が悪いということはないのですよ。
車好き社長: ええ、承知しています。先生に教えていただきました。事業が回りさえすれば、返済はしていけますし、設備やコストに投資したのなら、無税で返済することが可能です。しかし、この経営には余裕がありません。資金を回収する、返済を怠らないという約束を果たすための行動が優先され、事業の目的が、理念の実現にあるのではなく、お金を回すための事業に、つまり当初の計画通り行かなかった場合、事業の目的があっという間にすり変わってしまうような気がするのです。余裕資金が手元で薄いと、事業の目的が見えなくなりやすい原因を作ってしまうと言い換えてもよいです。
仮に、資金を完済したとしても、何度もシミュレーションしていただいたように、B/Sには何の財産も残らない、当初のままの姿に戻るだけでした。ここから新たな設備投資をしようとするなら、また借入をしなければなりません。実績ができましたから、今度は多少借りやすくなるでしょうか、返済の苦痛は変わりません。これでは辛いので、次の設備投資の時点では、無借金の経営を実現しようと発想します。しかしそのためには、減価償却費を資金繰りに盛り込まないで、つまり減価償却費がないものとして、法人税等を納税しながら返済原資を利益の中から確保しなければなりません。
そうすると、借入金を完済したとき、次の設備に投資する資金が確保できるのです。しかし、これは数字の上では2倍近い苦労が必要なので、とても厳しい、さらに辛い期間になります。
税理士: 数字の上での2倍は、体感として、それ以上の労力になるでしょう。いまのお話は、第6回<その5>の応用編ですが、非常に重要な視点なので図にしておきましょう。
→次ページではケーススタディをします。

山下明宏 Akihiro Yamashita


