(2009/10/24)
今回の相談者IT企業社長(車好き) (45歳)
無税で最高級車を乗りまわそう <その3>
社長: 前回の資金繰りのつらさは1カ月経っても忘れられません。
税理士: 確かに大変でしたね。でも見方を変えれば、877万円の高級車を6年間で合計たった158万円、詳しく分解して見れば、1年後に40万円、2年後に36万円、3年後に31万円、4年後に27万円、5年後に24万円、時差を使って別途に資金調達するだけで、ケイマンSを購入できるということなんですよね。
思い立ったときに資金がまったく無くても、あこがれの車を手にすることはできる! ということですよね。
社長: 視点を変えれば違った結論がでるわけですね。銀行などから877万円借りて手元資金無しで車を手にしたと思ったところで、実は時間差で158万円を別途、用意しなければならない理屈は、シミュレーションしてみてはじめて実感できました。でも、結局のところ別途の資金を用意する力があるのなら、頭金で158万円入れたらどうでしょう。こんな面倒くさい会計処理なんか無くなるのではないですか。借入金が減る分、金利も下がるでしょうし。
税理士: そうきましたか。そうした選択も当然ありますよね。わかりました。それでは、頭金158万円を用意したときの返済シミュレーションを作ってみましょう。
158万円の頭金を用意しますから、借入金は877万円―158万円=719万円で済みます。
借入期間は同様に5年間、金利も同じ条件で3%、支払利息の総額は54万円とします。1年後に18万円、2年後に14万円、3年後に11万円、4年後に7万円、5年後に4万円支払うこととします。金利分を稼ぐために売上を年間9万円(前回11万円)プラスして、395万円(前回397万円)とします。借入金の元金は、719万円÷5年で、年間144万円(最終年に143万円)返済します。
税理士: 条件が整いました。さあ展開しましょう。
社長: こうなることは想像できました。いきなり借入金<2>が登場しますが、これは頭金です。金利が低い分、前回より売上は2万円少なくて済むし、もう資金繰りの必要がなくなっているし、年々の展開は現金で買ったときのようになるはずです。税理士: だといいですね。では1年後を見てみましょう。
社長: !? なんですか? これっ。借入金<3>って!税理士: 借入金<2>は頭金です。借入金<3>は運転資金として別途調達しなければならなくなった借入金です。
社長: 別途って? 計算した上で必要な頭金を用意したんですよ。なんでまた資金が足らなくなるのですか!?
税理士: そうですね。順に追って原因をみていきましょう。今回の計画での年間売上高は395万円です。ということは、資金があなたの手元にそれだけ入ってくるということですね。
社長: はい。
税理士: では、費用の方を考えてみましょう。費用には2種類あります。“資金の流出を伴う費用”と“伴わない費用”でしたね。さあ分類してください。
社長: 資金の流出を伴う費用は、「維持費」と「支払利息」です。伴わない費用は「減価償却費」です。
税理士: その通り。復習でした。これでもう完全に理解されましたね。1年後のP/Lでは、維持費が240万円、支払利息が18万円、合わせて258万円の資金が流出します。ここで収入との差額は137万円です。これが、手元に残るお金です。しかし、この137万円は利益にはなりません。
社長: 資金の流出を伴わない費用、減価償却費に吸収されるからですね。
税理士: 間髪入れずの回答、すばらしいです! 1年後の減価償却費は366万円です。137万円はその範囲の中にありますから、まるまる手元に残ります。この137万円が借入金の返済に回るわけです。ところが、銀行との約束は年間144万円の返済です。ここに差額が、今回も7万円ほど生まれてしまいます。
社長: そうなんですか……いえ、そうなんですね。でもなんで資金が足らなくなるのかわかりません。せっかく頭金をそろえた甲斐がないではありませんか!
税理士: にわかにはお分かりいただけないかもしれません。焦らなくてもいいですよ。しばらく先に進むことにしましょう。
社長: あのう……、借入金<3>が増えているんですけど……。税理士: そうですね。新たに3万円の資金不足になりました。合計10万円の資金調達が必要になってしまいました。
社長: 事実は計算書類の通りなのでしょうが、今回のシミュレーションは、理屈も心情面も納得できないです。
税理士: 何でこうなるんでしょうね。でも社長はきっと答えを探されると思います。もう少し考えて見てください。さあ3年後はどうでしょう。
社長: あれっ? 借入金<3>の増加が止まりました。税理士: そうですね。
社長: 頭がこんがらがってます。なぜ止まったですか?
税理士: 3年後のP/Lでは、維持費が240万円、支払利息が11万円、合わせて251万円の資金が流出します。収入との差額は144万円です。
社長: この金額は、ええっと、金融機関に返済する金額に一致しています。
税理士: その通りです。3年後にようやく稼ぎ出した資金の中から返済できるようになるのですね。ホットひと息というところでしょうか。
社長: 頭金なしのときは、5年後まで別途の資金調達が必要でした。今回は3年後に解消しました。これが頭金をいれた効果なんですね。
税理士: そのようですね。さて4年後に進みましょう。
社長: ああっ! 借入金<3>が減少しました!税理士: 4年後のP/Lでは、維持費が240万円、支払利息が7万円、合わせて247万円の資金が流出します。このとき収入との差額は148万円です。
社長: 金融機関に返済する金額は144万円だから4万円の余剰が生まれたんですね。
税理士: はい。その4万円で借入金<3>の一部を返済したわけです。さあ5年後です。資金状況が、一気に良くなりますよ。
社長: 本当だ。銀行への返済は終わり、頭金で用意した資金の一部も返済できています。これならもう安心って気持ちになります。税理士: では安心した面持ちで6年後へと進みましょう。
社長: B/Sはきれいさっぱり何もなくなりましたね。残った財産は1万円ポッキリ。税理士: いえ、帳簿上は価値の無くなった高級車がまたまた計画通り、お手元に残りました。
社長: 今回も綱渡りみたいな6年間でした。しかし不思議ですね。ですが、事実です。頭金を入れても、こんなに現金が必要になるのですね。計画の重要性がわかって来ました。税金があるから企業経営は、常に資金繰りに苦しめられるのだと思っていましたが、実は税金以前の問題で悩みを起こしているケースが多そうですね。
税理士: よい視点に気づかれましたね。税金さえ取られなければと考えて、決算対策してしまう経営者のほとんどが、行き詰ってしまう原因の一端がおわかりいただけたでしょうか。
社長: はい。
税理士: 返済計画を綿密に練らないうちに借入れを起こすと、借金地獄に陥ってしまうイメージが湧きましたか?
社長: はい。よーく、わかりました。
税理士: 社長は理解が早いですね。それではついでといってはなんですが、投下した資金(借入金<2>、借入金<3>)を資金量として測定してみましょう。
社長: そんなことできるんですか?
税理士: 次の表をご覧ください。最初の図は、年々資金を必要な分だけ用立てた場合、その次の図は、頭金を用意した場合の図です。
※グラフ内の(数値)伸び率はあくまでも目安です。
社長: 最初の図では資金量の合計は515万円。次の図では979万円。頭金を用意するほうが倍近い資金が使われていることになっています。
税理士: そうですね。
社長: えっ? どういうことですか? せっかく計画の重要性を知ってスッキリしたところなのに、また頭がこんがらがってきてしまいました。そもそも515万円とか979万円とかB/SにもP/Lにも出てきませんでしたよ。
税理士: 理解するために、それぞれの図の縦計を見てみましょう。最初の図では、1年後に40万円の資金が必要になりました。
社長: これは借入金<2>(前回参照・1年後の残高)と同じですね。
税理士: そうです。2年後には76万円、3年後には107万円、4年後には134万円、5年後には158万円の借入金が必要になり、これらは年々のB/Sに借入金<2>残高として表記されます。
社長: それで?
税理士: その一定時点での借入金の残高はわかりましたが、その借り入れた資金が、どの期間、どれだけの運用効果をあげているかを知るのは、B/Sではちょっと難しくありませんか。
社長: 財務諸表を見るとき、そうした視点をもったことはありませんでした。
税理士: 1年後に用意した40万円は5年間塩漬けになっています。2年後に用意した36万円は4年間、3年後に用意した31万円は3年間、4年後に用意した27万円は2年間、5年後に用意した24万円は1年間同じように塩漬けになるのです。
社長: そうしてみると下の図では、当初に用意した頭金158万円は、ほぼ6年間丸々塩漬けになるのですね。1年後に用意した7万円は4年間ほぼ丸々、2年後に用意した3万円は2年間、同じように塩漬けになる。塩漬けになった資金量は合計979万円。年々の残高をみているだけではわからない大きなお金が見えてきました。
税理士: 金利が下がれば12万円の支払利息を減らせるだけでなく、必要売上高は低くなる。そして会計処理も簡素化されると試みて、頭金(借入金<2>158万円)を入れましたが、最終的には、それに借入金<3>(運転資金)10万円を加えた、168万円を別途用意しなければならなくなり、さらに資金調達が必要になり、会計処理も簡素になるどころか複雑にさえなりました。
社長: そうですね。資金と資金量をもう一度整理してください。
税理士: 資金は実際に用意された現金のことです。資金量は用意した現金を運用期間で年々積算したときの総量のことです。
社長: 私は12万円の支払利息を切約しようとしたために、979万円を塩漬けにしてしまったわけですね。
税理士: 他のことに運用してさらなる投資効果を得られたとしたら、もったいない使い方をしたということになってしまいますね。
社長: これは、明らかにもったいない使い方のような気がします。追加の資金や頭金を用意することなく、経営していく力をつけていくことが重要ですね!
税理士: その通りです。それでは、ようやく経営者としての第一歩を踏み出すことにしましょうか。
●次回は、借入金<2>、<3>を使わないで車を購入する方法を考えます。

山下明宏 Akihiro Yamashita


