(2009/07/24)
今回の相談者中小企業社長 男性 (42歳)
「交際費」を積極的に活用しよう
社長: そういえば、うちの会社を担当してくれている税理士さんが先月の監査に来たとき、交際費の限度額が「600万円」まで引き上げられたことを教えてくれました。
税理士: はい。昨今の「経済危機対策」における税制措置として、今年6月26日、租税特別措置法の一部を改正する法律が成立しました。そして、その中で(平成21年4月1日以後に終了する事業年度より)中小企業の交際費課税の軽減を目的に、資本金1億円以下の法人にかかる定額控除限度額を400万円から600万円に引き上げることになったんです。税理士の方は、あなたに最新の情報をお届けしたわけですね。
社長: では、経費として換算される交際費の割合はどのくらい変化するのですか?
税理士: これまでの法律では、たとえば600万円の交際費を使った場合、税金を計算する上で360万円までが“経費”として認められましたが、これからは540万円まで認められることになったんです。ということは、税金の計算対象になる交際費の支出が、これまでの240万円から60万円にまで引き下げられたことになります。
社長: 交際費の使い勝手がずいぶん広がったのですね。今回の税制措置は、「経済危機対策」の一環ということですが、そもそも交際費ってそんなに使えるものでしょうか?
税理士: 交際費は損金算入限度枠のあるなしに関わらず、大企業ほど多く使っています。やはり、赤字企業より黒字企業のほうが使っていますね。あらかじめ納税額を見越して予算が立てられる大企業と、黒字だから支出できる中小企業ですから、まぁ当然の話ではありますが……。交際費は、“余裕のある企業が使える経費”なんですかね。
社長: お話を伺うと、結局は経済危機対策としながらも、勝ち組企業のための優遇策になっているのではないですか?
税理士: 法律はいろいろな視点でとらえることができますから、どの視点が正しいということは一概には言えませんよ。ただし、政府は中小企業経営者にもっと街へ出て、お金を使ってもらうことを期待しているわけですから、その趣旨を理解して交際費を積極的に活かす方法を考えてみるのも面白いですよね。
社長: 積極的に活かす……?
税理士: そうです。あなたの会社も、現状ギリギリのところで黒字を維持していらっしゃるようですが、これから先、どうやって業績を拡大していこうとお考えですか?
社長: それは、うちの税理士さんにも折にふれて言われています。先日も業績確認を一緒にしたあと、中期目標を立てる約束をしたところです。
思い切って、年収を下げてみよう
税理士: 失礼ですが、年収は現在どれほどでしたか?
社長: 2100万円です。
税理士: 30代後半で独立開業したあなたは、今、フィアンセを探すより仕事のほうが面白いとバリバリ業務に打ち込んでいらっしゃる。しかし、業績はまだまだあなたの望むようには達成されていない。より質の高い取引先を開拓しようと思案されている……。
どうでしょう? たとえば思い切って年収を600万円下げ、交際費として使いきってみては? もちろん、個人の収入は1500万円になってしまいますが、独身のあなたなら十分な収入ではないですか? そして、その600万円を計画的に、戦略的に使って販路が広がるか試してみてはいかがでしょう。
社長: なるほど。ただし交際費は、“取引が成立したときのお礼”だとか、“季節のごあいさつなどに範囲を限って使う経費”だと教えてもらってきたはずでしたけど……。
税理士: 私もそういうご指導をしてきました。しかし、今回、交際費枠が広がったということは、あくまで「既存」の取引先と交際を活発にしなさいという意図だとは思えないのです。むしろ、「新規顧客開拓」の戦略費として、積極的に活かせという風に読めるのです。いかがですか?
社長: 確かに! そういう見方もできますね。しかし、交際をしたからといって、そんな簡単に取引先が開拓できるものですか?
税理士: ですから、そこに戦略性を見出しましょうよ。
たとえば600万円を12で割ると、1カ月で平均50万円使えることになります。これを予算としましょう。そこで、工夫が必要ですよね。相手の好みを素早く見抜いて贈り物をしたり、相手の心をくすぐるお店にお連れしたり、非日常の空間を演出する工夫を絶えず考える。当然、ご紹介者同士の輪は広がっていきますから、600万円が何倍の交際効果を生むか計ってみるのもいいですね。
社長: ごちそうになったり、頂き物をしたとき、メモを付けて目に見えない経済効果を積算するってことですね。
税理士: その通りです。一定期間後に、新規取引先でどれほどの取引が生まれたか観測しましょう。
社長: 新規取引先からの「売上高÷交際費」で効果を確認するんですね。
税理士: いいですね。 新規取引先からの「限界利益÷交際費」だと、さらに効果が見えてきます。それから交際費に入らない「1人当たり5000円以下の飲食費」を有効に使うという手もありますよね。
“1人当たり5000円以下の飲食費”で
既存顧客との関係を深めよう
社長: それはつまり、平成18年から認められた「1人当たり5000円以下の飲食費」ですか。
税理士: はい。「1人当たり5000円以下の飲食費」の支出については、基本的に支出回数の制限などがありませんから、新規開拓先の方とは交際費、既存の取引先様とは「1人当たり5000円以下の飲食費」にて情報交換、打ち合わせ、会議などを行うと区分けしてもいいですね。目的に応じて支出にメリハリをつけるのです。
また、交際とは離れますが、会議をするときなどは外部の施設を利用することにしてミーティングスペースを設けないオフィスに移って、固定費を削減するという方法もありますよ。
社長: そういえば、オフィスの契約期間満了の時期が迫っています。先日、更新のための書類が届きましたが、こうした不況下だというのに値上げを通知されて不満に思っていたところです。
税理士: たとえば、社員との日常の打ち合わせは机越しに話し、会議や研修のときは、レンタルスペースを活用するようにされたらどうでしょう? 現在は、安く借りられるところがたくさんありますよ。そういえば、入居5カ月間は家賃なしという物件を、私の関与先がつい先日契約していましたね。オフィス用物件は、確実に値下がり傾向にあるのではないでしょうか。
必要最低限のオフィスに移転する。会議、研修などは、必要に応じてレンタル・ルームを使用する。取引先等との打ち合わせの際は、終了後に「1人当たり5000円以下の飲食費」を使って、軽く飲食を振る舞ったりしたらどうでしょう。ちょっと気の利いたもてなしを繰り返していけば取引先との信頼関係は深いものになっていきますね。
社長: ビールなどを出してもいいのでしょうか。
税理士: 「5000円の茶菓費」とはなっていませんよ。「飲食」ですからね(笑)
社長: “新規顧客拡大のためには、一度に大きな交際費”を、そして、“既存先には「1人当たり5000円以下の飲食費」”を繰り返し使うということですね。お金の使い方が戦略的に見えてきました。では、年収を2100万円から1500万に引き下げた場合、所得税はどれくらい変わりますか?
税理士: 2100万円の場合は、所得税397万700円、住民税168万600円、社会保険料115万2828円で、合計680万4128円になります。(※)
1500万に下げると、所得税208万9700円、住民税111万600円、社会保険料115万2828円で、合計435万3128円になります。従って、個人の税負担は245万1000円軽減されます。
社長: つまり、その負担分を交際費に回すということですね?
税理士: 実質354万9000円の支出で、600万円使えるわけです。法人税等の負担は、別途24万5000円発生しますけれど。
社長: それは、60万円に税率を掛けた金額ですね。
税理士: 所得税を支払って、貯蓄をしていくのも大切ですが、今のあなたは事業を拡大していきたい人です。お金という限られた資源を有効に使って夢を実現していく方向を模索していい時かもしれませんね。そのためには、上手に税を活かすことです。そうそう、新規のお客様をすみやかに取引先として誘導するには、顔のよく利く飲食店を作ることも大切ですよ。
社長: 戦略的な交際費等の使い方を教わり、会社経営に希望が持てるようになりました。経営者にしかできない営業を、より深く模索してみます。
※所得税などの計算は、あくまで目安としてお考えください。

山下明宏 Akihiro Yamashita


