飲食店独立開業の心得

(2009/08/24)
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独立開業を目指す皆さんなら、“こんなお店にしたい”というアイデアを、すでに持っていらっしゃるのではないでしょうか? “こんなお店にしたい”=“お店のコンセプトを決める”ことが、まず開業への第一歩です。皆さんは「イタリアン」とか「カフェ」あるいは「仲間とワイワイ騒げる店」という漠然とした希望は持っていらっしゃるでしょうが、それでは詰めていかなくてはならないことが山積みです。

飲食店と一口に言っても、和食・洋食・フレンチ・イタリアン・寿司・カフェ・居酒屋など、様々な業態があります。またその中でもカジュアルなお店にするのか、高級店を目指すのか、どんなお客様を対象にするのか、どんな場所に開業するのかなど、細かく分類すればきりがありません。それらの一つひとつを絞っていくのですから、コンセプト作りはとても大変な作業です。しかし、お店のコンセプトがしっかりしていれば開業もスムーズですし、開業後もぶれない営業ができるはずです。

つまり、コンセプトがぶれると失敗する可能性は大いに高まります。

矢場とんから巣立ち、独立したものの、失敗して矢場とんに戻ってきた社員の例を紹介しましょう。

彼は矢場とんの味を受け継いで、とんかつのお店をオープンしました。しかし、いざ開業してみると矢場とん時代とは大違い。厳しい現実を突きつけられます。仕入れひとつとっても、開業したての彼のお店には「信用」がありません。毎日、納品時に現金支払いを求められます。客足が伸びなければ、とたんに資金面で厳しい状況にたたされます。

資金に余裕がないと焦ります。「味は矢場とんとまったく同じなのだから、なぜ流行らないんだろう?」。食器が悪いのでは? 看板が目立たないのか? 少しずつお店に手を入れはじめ、さらに経費がかさみます。また、お客様から「あそこの店ではランチにうどんをつけている」「大盛りは無料にしてほしい」などの意見を聞くと、さらに迷い始めます。結局すべて受け入れてみましたが、お客様が増えるわけではありませんでした。こうしてどんどん深みにはまっていき、結果、店をたたむことになってしまいます。

彼は、矢場とんで学んだ「味」や「接客」という大切なものを見失ってしまったのです。「自分の夢がなんだったのか、どんなお店にしたかったのか、まったくわからなくなっていた。最後はうどん定食みたいなものを出していました」と、当時を振り返ります。

繁盛しないお店は、必ずコンセプトがぶれており、どこか感覚が狂っているのです。

皆さんもこの話を聞くと、きっと笑うでしょうが、毎日お客様と顔を合わせ、お客様の数で収支が突きつけられる飲食店経営だからこそ、陥りやすい落とし穴なのです。


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おいしいものを提供するには、あなた自身が一流の味を知っていることが重要です。

コンセプトの重要な要素に看板メニューがあります。まずどんな料理を売りにするのか、そのためには自分の舌を磨くことが重要です。出費を惜しまず一流の味を知りましょう。二流・三流の味しか知らず、その味を店の基準にしてしまったら、お客様に満足していただける料理を提供できるとは思えません。自分の舌に様々な味を覚えさせて勉強することは、飲食店経営者にはあたりまえのことなのです。

ただ、自分が美味しいと思うものだけを食べていればいいわけではありません。“この値段でこの味。この客層にはこんな味やサービスが受ける”というお客様やお店の形態に合わせたレベルを知ることが大切です。コンセプトを決める前に、まずは自分自身が色々なお店に足を運び、たくさんの味や接客を経験しておくことが必要です。本当の味を知らなければ飲食業は成功しないと心得てください。また、様々なお店を経験することで、ある程度お手本にしたいお店を想定してコンセプトを固めていくこともひとつの方法です。

こうして、自分の出したい味が価格や客層と釣り合っているか、お客様に望まれるものであるか、出店前にしっかり確認するのははもちろん、出店後も舌を磨き続け、自分の店の味を進化させていかなければならないのです。

また、「○○といえばココ」といわれるような看板メニューを持つことも、繁盛する飲食店の重要な条件です。

創業当時の矢場とんは、串かつやとんかつだけではなくスパゲティや焼きそばもある、昔ながらの大衆食堂でした。1972年にナゴヤ球場の外野席でみそ串かつを販売し始めたところ、大ヒットとなり、「みそ串かつ」といえば矢場とん」と全国的に知られる存在となりました。

これが、現在の「みそかつの矢場とん」の看板メニュー「鉄板とんかつ」や「わらじとんかつ」につながっていきました。素材の質を極め、味だけでなく食器や盛り付けなどにもこだわり、名古屋名物として、みそかつの品質を向上し続けてきたことも、今日まで続けてこられた理由なのではないかと思います。

たとえば、「ハンバーグの美味しい洋食店」というコンセプトに決めた場合、自分が自信を持って提供できるハンバーグの肉の質や大きさはどれぐらいで、どんなお客様に食べていただきたいか。そして、それはいくらだったら食べに来てくださるかのを決めることが、看板メニュー作りの第一歩です。さらに、いつも最高の味を提供し続けること、お客様と自分の味覚がズレてきていないかを確認することが必要なのです。

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最近のお客様は舌が肥え、サービスにも厳しいチェックの目を光らせています。日本は世界でもトップのサービス大国ですから、お客様が望むものはすべて提供してあたりまえのような風潮すらあります。

しかし、お客様の言うとおりにすべてのサービスを取り入れていけばいいというものでもありません。“気軽な居酒屋で一流レストランのサービスを”というのはおかしな話です。お店や雰囲気、お客様に合ったサービスを提供するべきなのです。

たとえば、冬にコートを着て食事に行った場合です。高級レストランなら、入り口でコートを預けるのが通常のサービスです。しかし、お昼に15分ぐらいでさっと食事を済まそうとファーストフード店に入ったのに、店員に「コートをお預かりしましょう」と言われたらどうでしょう? 混雑した店内ではコートの受け渡しだけでも時間がかかり、イライラしてしまうのではないでしょうか? ファーストフード店の立場でも、預かったコートが汚れてしまったり盗まれたりした場合、利益率の低い業態ですから、補償などしていたら経営が立ち行かなくなってしまうでしょう。

矢場とんでも、ハンガーは用意していますがコートはお客様ご自身でかけていただいています。それが矢場とんに合ったサービスであり、お客様の望むものだと考えているからです。

カフェや居酒屋でも、寿司店でも、それぞれの業態にあったサービスがあります。決して「単価の安い業態だからこれぐらいのサービスレベルで充分だ」という意味ではありません。実際に現場でお客様をよく見ていれば、どのようなサービスを望まれているかがわかります。過不足なく、お互いに気持ちのよい関係でいられるサービスを提供したいものです。

明るい飲食店開業は“明確なコンセプト作り”からはじまります。夢は大きく、しっかり現実を見極めて考えてください。


●次回は、「独立資金、運転資金」についてお話したいと思います。

筆者紹介

鈴木純子 Junko Suzuki
1947年、愛知県名古屋市生まれ。現在、名古屋と東京を中心に展開する「みそかつ矢場とん」女将。サラリーマンの両親を持つ、ごく普通の家庭で育った「あたりまえ」の感覚をベースに、家族の助けを得て、徐々に店舗を改革。家族経営の典型であった同店を、年商17億円の企業に成長させる。
http://www.yabaton.com/

『脱・家族経営の心得』 (藤沢久美著)

 

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