飲食店独立開業の心得

(2009/10/10)
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現在、飲食業で成功している方々のほとんどが、そこに辿り着くまでには多くの失敗を重ねてきていると思います。

もちろん、失敗を恐れていては挑戦すら出来ませんし、失敗からしか成功は生まれないと、多くの成功者が語っています。

ただ、私は女性だからかもしれませんが、家族や友人、知人との関係にひびがはいるようなことは決してあってはならないと思います。ですから、自分自身も出来るだけ失敗しない方法をとってきました。開業するにあたっても、厳しいかもしれませんが、最初から融資や他人の力をあてにするような計画ではいけないと考えています。

自分が用意できる資金や人材、能力の範囲を考慮して、開業することがベストです。

さらに、たいていの場合、お店経営は上手くいくことのほうがまれです。ですから、最低限、自分や家族が1年間は持ちこたえられる生活費も用意しましょう。そうすれば、1年はお店に集中してがんばることが出来ます。

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開店資金を貯めるためにも、まずはあなた自身が、繁盛店や自分の想定する店に近い個人経営の飲食店で実際に働くことをおすすめします。そこで店内での動き方を体で覚えたり、経営者がどんなことに注意しているかを学んでくることが大切だと思います。やはり、現場を知っていることが財産なのです。

経営者となる自分が、これぐらいの忙しさのときは何人ぐらいのスタッフが必要で、夕方など、客数が落ち着く時間には最低限何人必要かを把握していないと、アルバイトを雇うにも目安がわからず、人件費も膨らむばかりです。また、自分自身が忙しいときの対応の仕方がわかっていないと、従業員に教えることも出来ませんから、満足な対応が出来ずクレームにつながってしまうこともあります。

矢場とんも、新店オープンの時には大々的に宣伝しません。どんなに他店舗で忙しさに慣れたスタッフでも、落ち着いて動けるようになるまでにはやはり3ヵ月ぐらいかかってしまうので、少しずつお客様を増やして慣れていきたいと考えているからです。

また、夕方などの客足の落ち着く時間には、店内を区切って少人数でお客様に対応できるようにしたり、掃除やミーティング、チラシ配りをしたりするなど、暇な時間を有効利用するように工夫しています。人数が多くなりすぎないシフトを組むとともに、急に忙しくなっても困らないよう、常日頃から1人ひとりが1.5人分の仕事が出来る人材育成をしています。

その目的は、ただの人件費削減だけではありません。人数が多いとかえって緊張感がなくなって私語が増えたり、“誰かがやるだろう”という心が生まれ、お客様への対応がおろそかになったりしてしまいがちです。こうした小さな隙がクレームにつながってしまうのです。暇な時間ほどクレームが出やすいものです。

悪評が広まるのが、飲食店にとっては一番恐ろしいことです。最近は素人グルメブログや情報交換の場がたくさんありますから、瞬く間に消費者の間に悪評が広まってしまうでしょう。

そのようなことを考えると私は、最初は小さなお店でひっそりとオープンし、来ていただいたお客様を丁寧に応対して、また来店していただけるような努力を積み重ねることをおすすめします。そうして、よい評判を広めてもらうほうがずっといいでしょう。口コミが広がる頃にはスタッフも運営に慣れてきているでしょうし、悪かった点は改善できているかもしれません。

最適な人数で効率よく運営することが、スタッフの成長、ひいては繁盛につながるのです。

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さて、無事開店し、数日営業をしたら、ゴミ箱の中をのぞいてみましょう。

もし素材ゴミやお客様の食べ残しが多ければ、その店にはまだまだ見直せる点が多いはずです。

調理の際、無駄はありませんか? はじめは出来るだけ少ない素材を使いきれるよう、同じ素材でバラエティに富んだメニューにする工夫が必要です。

飲食店では捨てるものが出ないよう、仕入れをしすぎない、作りおきをしないメニューが基本です。

矢場とんでもよくスタッフに話します。たとえば高級店では、キャベツを5枚も剥いて本当にいいところだけを使い、残りは捨ててしまいます。しかし矢場とんのような大衆的な飲食店では、外側のキャベツ1枚も無駄にしない心が大切。ゴミ箱を空にするぐらいの工夫が必要です。

もしゴミ箱にご飯が多く残っていたら、それは量が多すぎるということですから、お客様に合わせてご飯の量を工夫しましょう。それがお客様を観察することにつながります。たとえば、ご年配の女性が来店したら、「ご飯は軽めに盛り付けましょうか?」と聞いてみたり、食べ盛りの青年が来店したら「少し多めに盛り付けましたよ」とお声をかけたりします。そこで一声かけることでコミュニケーションが生まれます。

ゴミ箱の中にこそ、お金があると考えるのです。

矢場とんでは最近、ご相席にご協力いただいたお客様に、コールスローサラダをお出ししています。外側のキャベツを使って、こちらも感謝の気持ちをお伝えでき、お客様にも「相席してよかった」と思っていただける工夫です。これは捨てるものをお出しするということではなく、捨ててしまったりまかないに使うキャベツにひと手間かけて、にんじんなどの素材を加えることで美味しく提供する、「物を大切にする心」に「感謝の気持ち」を託しているのです。

開店当初はオペレーションも不慣れなはずなので、無理せず少ないメニューでスタートしたほうが安心です。

順調に客足が伸び、資金的に余裕が出来てからメニューを増やしていけばよいのです。そうすれば、「あそこは繁盛してメニューも豊富になってきたね」とお店の成長をお客様に感じていただけます。逆に最初は多かったメニューを減らすことになってしまっては、「あそこは流行っていないからメニューも減らして節約しているな。もうつぶれるんじゃない?」と、お客様に悪い印象を持たれてしまいます。

お客様のリクエストからメニューが増えることもあります。矢場とんでは、「アツアツの鉄板に乗ったとんかつが食べたい」というリクエストから「鉄板とんかつ」が生まれ、「もっと大きいかつは出せないの?」というリクエストから「わらじとんかつ」が生まれました。同じとんかつという素材から、ここまでバリエーションを広げられることをお客様が教えてくれたのです。お客様との対話から新しいメニューが生まれることも、飲食店経営の醍醐味ではないでしょうか?

はじめは小さなお店でもかまわないのです。最初に無理をしてどんどん悪くなっていくより、少しずつでも上昇していくことが喜びにつながるのではないでしょうか?


●次回は、「誰と経営するか、家族経営のありがたさ」についてお話したいと思います。

筆者紹介

鈴木純子 Junko Suzuki
1947年、愛知県名古屋市生まれ。現在、名古屋と東京を中心に展開する「みそかつ矢場とん」女将。サラリーマンの両親を持つ、ごく普通の家庭で育った「あたりまえ」の感覚をベースに、家族の助けを得て、徐々に店舗を改革。家族経営の典型であった同店を、年商17億円の企業に成長させる。
http://www.yabaton.com/

『脱・家族経営の心得』 (藤沢久美著)

 

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