飲食店独立開業の心得

(2009/11/10)
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飲食店に限らず、新しい仕事にチャレンジする際、誰かパートナーと一緒に始めようと考える方も多いと思います。確かに、資金面、精神面ともにパートナーがいれば、より安定すると思うかもしれません。しかし、安易に「誰かと」というのは反対です。

何度もお話してきましたが、独立開業は、「うまくいかない」と考えましょう。しかも、経営・接客・調理・人材教育から雑用にいたるまで、「一人でやる」覚悟が必要です。ですから、はじめから誰かを当てにするような開業は賛成できません。

しかし、矢場とんも家族経営からスタートしましたし、パートナーとともに開業し成功していらっしゃるお店もあります。では、成功するためのパートナー選びとはどういうことか、考えてみましょう。

成功の鍵は、役割分担がしっかりしていること。

よく言われるように、船頭が多くては、その船は行き先を見失ってしまいます。ですから、パートナーとの開業を決意した際には、はじめによく話し合い、それぞれの性格や能力、気質を分析して、縦横の役割を決めておきましょう。

たとえば、資金提供者(スポンサー)と運営実務者(店長)といった経営面での役割分担、経営者とシェフ・ホールチーフ(実務者)という分担、あるいは、対等な関係で、調理担当と接客担当のように実務を分担するなどが一般的でしょう。

自分には出来ないことが出来る人、苦手なところを助けてくれる人をパートナーにし、上手く役割分担していくことが、お互いに尊敬できる関係を維持しながら繁盛店をつくる秘訣です。

また、友人たちとお金を出し合って開業する共同出資の場合、それぞれの立場を平等にしなければならないように思ってしまいがちですが、それは間違いです。誰が最終的な権限を持つのか、あるいは、経営判断の決定はどのようにするのかを、きちんと決めておかなければなりません。

また縦横の関係についても、それぞれの役割を明確にしておくべきです。あいまいに並列な人間関係のままで始めてしまっても、時間がたつにつれて、誰かがイニシアチブを持つようになり、その際、他の出資者が賛同できなくなり、結局、仲間割れになる場合が大半だからです。

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パートナーが決まり、役割分担も明確になったら、まず「自分たちの店をこういうお店にしたい!」という長期的な目標や、創業するにあたっての想いを、とことん話し合いましょう。

目標には色々な形があります。たとえば、「人気店として繁盛する」「出店を増やしていく」「FC化する」といったことです。また、「売上を○円にする」「○店舗出店する」「銀座の一等地に自社ビルを建てたい」というように、数値を具体化させるのも大事です。

目標が固まったら、それを文書にし、創業の想いとして保存しておきましょう。お互いに迷いが生じたとき、それを読み返し、原点に立ち返ることで、経営方針や店のコンセプトがブレることを防ぎます。

また、もっと身近な目標も設定し、それに向かってお互いに努力するようにしましょう。

たとえば、「若いお客さんが気楽に集まる店にしたい」とか、「1日○万円の売上を達成したい」「行列ができるようになりたい」など、お店が小さいうちは、意識して毎日話し合いましょう。その日の悪かったところを反省し、良かったところを伸ばすような前向きな目標設定をして、「今日もがんばってよかった」と翌日に繋がるよう明るく締めくくり、楽しい雰囲気作りをすることが大切です。

その小さな目標を設定する過程で、お互いに、小さな勘違いや思い違いができていないか、確認すればいいのです。

また、小さな目標を達成していくことで、少しずつお店が、自分たちで立てた目標に近づいていることを実感できます。その経験を積み重ねていくことにより、お互いの信頼感を高めていくことが出来るでしょう。しかし、毎日目標を話し合い、すり合わせていくなかで、決定的なズレが生じることもあるでしょう。そんな場合は、勇気を持ってパートナーシップを解消する決断をすることが肝心です。

パートナーはお互い目標に向かって進み、切磋琢磨し合える関係でなければなりません。1度失敗しても、また立ち上がる糧になるような失敗なら、早い時点で経験すればいいのです。

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家族がパートナーであれば、切っても切れない間柄であるという信頼関係が他人よりも強く、一番安心できるでしょう。

ただ、新しく起業する場合は、家族をあてにしてスタートすることに、私は絶対に反対です。

奥様や親・兄弟であれば、アルバイトを雇うよりも安い、お小遣い程度の賃金で接客ぐらいはしてくれるのでは? と、家族に甘える心が必ずあるからです。これは公私混同にしかすぎませんし、役割分担もきちんと出来ないでしょう。

「家族ならば手伝うのはあたりまえ」ということは絶対にありません。そんな考えで手伝わされては、家族は給料ももらえないのに、働かされる不満でいっぱいになります。さらに24時間一緒にいることになるわけですから、家族関係も、険悪になってきてしまいます。他人同士であれば遠慮があり我慢することも、家族であれば感情的に責めてしまいます。

お店が必ずうまくいく保証はありませんから、生活面で家族の協力が必要なら、奥様には、パートやフルタイムでよそへ働きに出ていただき、仕事を家庭に持ち込まないほうが賢明な判断です。お店が軌道に乗って、家族から、「手伝わせてほしい」と言ってきた場合は、心強いパートナーになれるかもしれません。その場合でも、役割分担は明確にし、お互いに尊敬できる間柄でいられるようにするべきです。

矢場とんは創業当時から家族経営で、家族と一緒に働けることにありがたさを感じることも多々あります。ただ、家族の問題と経営の問題が絡み合って、難しいこともあります。大女将がいたころは、私がお店を改善しようとしても、大女将が元のやり方にこだわり、どうしても、「企業」ではなく、「家業」の域をでませんでした。話し合いの場をもうけても、なかなか冷静になれず、家族会議なのか、経営会議なのかわからなくなってしまうこともありました。

そんな時、矢場とんの場合には、信頼できる第三者に参加してもらうことが有効でした。

当時、旧本店の改装をお願いしていたデザイナーの方がいらっしゃいました。矢場とんのことを良く理解なさっており、「会議に参加してほしい」とお願いすると、快く引き受けてくださいました。その方が、率直な意見を投げかけ、要点をまとめたり、社長や私のするべきことを指摘したりしてくださるようになってから、だんだん家族も、会議の進め方に慣れていきました。

また、私は現在経営に参加してくれている3代目の長男や長女に、子どもの頃から、矢場とんの「ここを変えたい」「このままではダメになってしまう」という経営の話を、ずっとしてきました。時には、それが明け方3時や4時になることもありました。

彼らは、そうした私の思いを受け止めて、「本当にこのままでは矢場とんがダメになってしまう」と思ったタイミングで、入社してくれることになりました。彼らはそれぞれ仕事などでまだやりたいことがあったにも関わらず、覚悟を決めてくれたのです。それは非常に嬉しく、心強いことだと思いましたが、申し訳ない気持ちが大きかったのも事実です。

家族であっても、パートナーとして甘えのない関係づくりが大切です。

パートナーと別れる決断が出来るのも、相手が他人であるからこそです。家族との共同経営では、そうはいきません。そういう意味でも家族経営は難しいと思うのです。

新しく起業される方は、ぜひともお互いの立場を尊重できる、家族以外のパートナーを見つけてください。

●次回は、「選ばれるお店になるためのサービスの向上、オリジナリティの追究」についてお話したいと思います。

筆者紹介

鈴木純子 Junko Suzuki
1947年、愛知県名古屋市生まれ。現在、名古屋と東京を中心に展開する「みそかつ矢場とん」女将。サラリーマンの両親を持つ、ごく普通の家庭で育った「あたりまえ」の感覚をベースに、家族の助けを得て、徐々に店舗を改革。家族経営の典型であった同店を、年商17億円の企業に成長させる。
http://www.yabaton.com/

『脱・家族経営の心得』 (藤沢久美著)

 

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